Column: 07

カクテルバーDANBO

この世の中は、声と音で溢れてれている。

2019.10.25

認知症世界。この世界には、周囲の話し声が耳に大きく響き、気になって仕方なくなってしまう謎のカクテルバーがあります。店の隅でほんの小声で語られている大統領暗殺計画、服ノ袖トンネルに眠る秘宝の噂、…そんな話が気になってしまい、目の前の人との話に全く集中できないのです。

「カクテルパーティー効果」という言葉をご存知でしょうか。騒がしい環境のなかで、自分に必要な声や音だけを聞き取る脳の働きのことです。色々な人の声が飛び交うパーティーの中でも話し相手の声は聞こえますし、遠くでの会話に登場した自分の名前だけは聞こえたりした経験は誰もがあるのではないでしょうか。
一方で私は、リビングで家族と話をしている時に、ついているテレビの音に引っ張られててしまい、家族の声が聞き取れなかったり、電車の中では本を読みたいのに隣の人の会話が気になって本が読めなくなってしまうこともありました。

しかし、最近、単に聞き取りづらい、集中できないとは違う、不思議なことを経験するようになったのです。

それは、町内会の集会での出来事。
町内会長がマイクを使って話をしている中、横の人がひそひそと他の話をはじめました。
声のボリュームは、明らかにマイクの方が大きいのですが、私には隣の人たちの話が耳に入ってきて*1、マイクの声を聞き取ることができなくなってしまいました。
その後も、話の途中途中で、いろんな人の声が同時に飛び交うと、どの声を聞けばいいのかわからなくなって*2、ついに話についていけなくなってしまいました。
それは、まるで、右に行こうとしているのに、むりやり左に引きずって行かれるような、制御不能な暴走車を運転しているかのように、自分の耳があちこちへと持って行かれてしまうのです。
自分は聞こうとしていないのに、強制的に聞きたくないものを全力で聞いてしまうので、町内会が終わる頃にはもうへとへとでした。

また、喫茶店でご近所の友人たちとおしゃべりを楽しんでいた時のこと、店の外から救急車のサイレンの音が聞こえてきました。

友人たちも、ぱっと外の方に目をやりましたが、それはほんの一瞬。後は何事もなかったように、
おしゃべりを続けました。しかし、私だけは、サイレンの音にとらわれてしまい*3、みんなが何を話しているのか、なんだかよくわからなくなってしまいました。話を振られれば、なんとか適当に答えるのですが、もう会話も楽しめず、帰りたくなってしまいました。私の耳は、すっかりサイレンの音の虜になってしまったようで、救急車が通り過ぎたあともずっと私の耳ではサイレンの音が鳴っていました*4。

こんなことが立て続けに起こったので、もっと集中して人の話をしっかり聞き取らなければ思い、話している人の口元を見つめながら聞き取るようにしてみました。すると、またしても不思議な出来事が起こったのです…。
家で夫の仕事の話を聞いていた時です。私は夫の話を聞き逃すまいと、じっと夫の口元に集中していました。すると、いつしか話し声はぼんやりとしか聞こえなくなり、口が縦に、横に動いているその動きから目が離せなくなりました*2。
どうも、見ることと聞くことは、私の中でつながらないようで、話し声に注意を向けるのはこんなにも難しいのか…と思いました。

そんな私は、最近、人と会う場所をすすんで自分で選ぶようにしました。
隣の人との席が近すぎず、BGMがかかっていなくて、店員さんの声が飛び交ったりしない、なるべく静かなお店を選んでいます。さらに、照明の光が強すぎると目が痛く感じるので*5柔らかな光のお店や、冷房が効きすぎていると具合が悪くなるので*6店内の温度も大事です。なるべく体にストレスのかからない環境で話せば、脳への負担も少なくなり、疲れにくいので楽に長く話せます。
私に優しいお店は、友人たちにとっても落ちついてゆっくりできるお店のようで、「お店選びのセンスがいいね」なんてほめられることも。グルメサイトはたくさんあるので、店内のBGMなど環境の情報もいっしょに書かれているといいなぁと思っています。

Barrier:

「カクテルバーDANBO」に直面する背景には、
以下6つの認知症に伴う心身機能の障害が考えられます。

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Knowledge:

認知症のある方ご本人、支援者、家族、その他全ての人のこの課題解決のための知恵や世の中の障壁に関する情報を掲載します。皆さんの知恵の投稿もお待ちしております。

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世の中の障壁に関する情報を掲載します。皆さんの知恵の投稿もお待ちしております。

  1. 樋口直美さんの知恵

    2019.10.24 投稿

    静かな環境で人と会う

    樋口直美さんの知恵

    2019.10.24 投稿

    人と会うとき、自分で店を選べる場合は、なるべく静かな環境を選びます。BGMがなく、人が少なく、隣のテーブルと距離があれば最高です。私の場合、聴覚の過敏や異常は出たり消えたりするので平気なときも多いのですが、静かな方が頭が疲れにくく、人と話しをするのも楽です。 音の他にも、夜間の明るい照明は目に刺さるようでつらいですし、冷房も極端に苦手です。夏、席に着く時は、天井の空調など見て冷房の風が当たらない場所を探します。 とはいえ、現実には「店を変えてほしい」とは言い出しにくく、我慢することも多いです。 「この店でいいですか?テーブルは、どの場所が楽ですか?」とさりげなく聞いてくださる方が以前いらして、とてもありがたかったです。

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