Column: 10

ホワイトアウト渓谷

視界を失う。記憶が消える。

2020.02.19

認知症世界。この世界には、深い霧と吹雪で、視界と記憶を真っ白に消し去る渓谷があるのです。晴天の時は絶景が広がるのですが、突然、天気が変わると深い霧と横殴りの雪で、景色が真っ白に染まり、全く見えなくなるのです。それと同時に、私が目にしていた世界の記憶も消えてなくなってしまうのです。

私達は想像以上に目に頼って生きています。やらなければならないことも、スケジュール帳やTODOリストのように見えるカタチにしなければ、ついつい忘れてしまいます。好きな服も、一旦洋服ダンスにしまうとその存在を忘れて長年着そびれてしまいます。

その日は、買い物中にトイレットペーパーがなくなったことを思い出し、購入したのですが、家に戻ったところ、トイレの上にある収納棚いっぱいにトイレットペーパーがぎっしり!あれ?こんなにたくさんあったの?だれがいつ買ったんだろう…と私には身に覚えがありません*1。
夫が買ったのだと思い、文句を言うと、夫は買っておらず、なんと、先週も私がトイレットペーパーを買っていたというのです。自分でも信じられないのですが、どうも私が何度も勘違いをして、買ってしまったようです。トイレに入るたびに、大量のトイレットペーパーは目にしているのですが、扉を閉じて視界から消えた途端に、記憶からも消えてしまうのです*2。

ある日の深夜。目を覚まし、トイレに行こうとしたのですが、トイレの場所がわからなくなってしまいました。薄暗く、扉が見えにくかったこともあるのですが、扉の向こう側に何があるのかがイメージできないのです*3。 仕方がないので、1つずつ扉を開けて確かめ、バタバタとトイレに辿りつきました。

似たような出来事は、職場でも起きました。昨日の入力作業の続きをしようと、パソコンを開きました。しかし、昨日まで使っていたファイルがどこにあるのかがわかりません。デスクトップにいくつかフォルダーが並んでいるのですが、その中に何が入っているかを想像することがまったくできないのです*3。 そんなことは初めてで、私は、青くなってしまいました。

なんとか1日の仕事を終えて、帰りに買い物をして帰宅しました。冷蔵庫に買ったばかりのお肉や野菜をしまって扉を閉じたその時です。不思議なことに、一瞬にして、いま冷蔵庫に何を入れたのか、何が入っているのかわからなくなってしまった*2 のです。今この手で、食材をしまったはずなのに…しかたなく、もう一度冷蔵庫を開けて、夕食をつくるためにどんなものがあるのかを確かめなければいけませんでした。
実は最近、食器を取り出す時も一苦労していたんです。扉が閉まった食器棚では、どこにどんな食器が入っているのか見当がつかず*3、食事の準備の度に全部の戸棚を開け閉めしたり、いつも水切りかごに出ている同じ食器ばかりを使っていました。しかし、この悩みは、戸棚を、ガラス張りで中が見えるものに新調したら、すっかりなくなりました。

最近は、写真で冷蔵庫内を撮影して管理するアプリ冷蔵庫の中身がいつでも見られる冷蔵庫専用のカメラなんかもあるみたいです。何度も冷蔵庫を開けなくて済みますし、買い物に行く時は、そのアプリやカメラの様子を見ながら買い物をすれば、同じものを買いすぎることもなくなります。

また、“家にあるものを把握する”のではなく、“家にないものを把握する”、「ないものリスト」を作って買い物に行くのもおすすめです。台所にメモを置いておき、ないとわかった時に、すぐにメモをします。そして、買い物に行く時には、必ずその「ないものリスト」のメモを持って行きます。
こんな風に、自分が忘れてしまうことは、文字にしたり、アプリや新しいテクノロジーにお任せすることで、以前のようにトイレットペーパーや食材を買いすぎてしまうことも少なくなりました。

Barrier:

「ホワイトアウト渓谷」に直面する背景には、
以下3つの認知症に伴う心身機能の障害が考えられます。

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Knowledge:

認知症のある方ご本人、支援者、家族、その他全ての人のこの課題解決のための知恵や世の中の障壁に関する情報を掲載します。皆さんの知恵の投稿もお待ちしております。

認知症のある方ご本人、支援者、家族、その他全ての人のこの課題解決のための知恵や
世の中の障壁に関する情報を掲載します。皆さんの知恵の投稿もお待ちしております。

  1. 共創ハブ研究員の知恵

    2020.02.18 投稿

    ガラス張りで中が見える戸棚

    共創ハブ研究員の知恵

    2020.02.18 投稿

    戸棚の中が見えることで、食器がパッと目に入ってくるので、どこに何が入っているのか考えなくても済みます。前面ガラス張りでなくても、一部分だけ小窓のようなところから中が見えるだけでも探しやすいです。

  2. 共創ハブ研究員の知恵

    2020.02.18 投稿

    Pantry Photo

    共創ハブ研究員の知恵

    2020.02.18 投稿

    冷蔵庫の中の写真を撮影・登録して、「ざっくり」と管理する冷蔵庫の在庫管理アプリ。食材ひとつひとつの登録機能はないので、細かく賞味期限を管理したい方には不向きですが、情報入力が面倒で続かない、冷蔵庫の中身はだいたい把握できれば助かるという方にはピッタリです。
    https://app-liv.jp/1210278614/

  3. 共創ハブ研究員の知恵

    2020.02.18 投稿

    FridgeEye

    共創ハブ研究員の知恵

    2020.02.18 投稿

    冷蔵庫が閉まる際に自動的に写真を撮るという、シンプルな仕組みの冷蔵庫専用カメラ。写真は120°の広角で撮影されており、その写真はWi-Fiを通じて転送されて、いつでもどこでも最新の庫内の状態をアプリから確認できます。小型で設置しやすく、今使っている冷蔵庫に手軽に導入できます。Indiegogoにて支援を募った結果、目標支援額に到達したため、現在最終製品を製作中とのこと。
    https://www.indiegogo.com/projects/fridge-eye-turn-your-fridge-into-a-smart-fridge#/

  4. 樋口直美さんの知恵

    2020.02.18 投稿

    ないものリストを作って買い物にいく

    樋口直美さんの知恵

    2020.02.18 投稿

    台所にメモ用紙とペンを用意しています。食材や日用品など、なくなったもの・残り少ないものに気づくと、すぐにその場でメモします。ペンもメモ用紙も貼り付けてあるのでなくなることはありません。買い物に行く時は、必ずそのメモを持って行くので、買い忘れや買い過ぎの失敗はなくなりました。

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