Column: 12

七変化温泉

未知の感覚と出会う場所

2020.04.24

認知症世界。この世界には、入るたびにお湯の温度や匂い、肌触りが変わる不思議な温泉があるのです。ある時は、しっとり適温のお湯で、ゆっくりとくつろげ、ある時は、ピリピリする刺激的なお湯です。またある時は、つま先を入れた途端に飛び上がるような熱さでびっくりすることも。ここでは、その時々に応じて変化する多彩な感覚を味わい、楽しむのです。

季節や時間帯、体調によっても感じ方、見え方が変わることってありますよね。気が乗らない日の朝は視界が淀んで見えますし、 親しい人との楽しい食事は何でも美味しく感じられます。この部屋臭いなと思ったら、些細な臭いも気になり、どんどん臭く感じてしまいます。
でも、それは大抵の場合、自分にしかわからないことなので、人にわかってもらうのはすごく難しいことです。

最近、私が感じている感覚を周りの人には理解してもらえないことがよくあるのです。
ある時、自宅のお風呂で不思議な体験をしました。いつもどおり、39度にセットして、お風呂に入ったのですが、なんだかいつもと違う触感なのです。お湯がどうもヌルヌルします*1。入浴剤は入れていません。でも何かが体にまとわりつくようで、とっても気持ちが悪いのです。しかたがないので早めにお風呂から出て、シャワーでからだを流すことにしました。お風呂掃除の時の洗剤でも残っていたのかしら?と思い、直前に入った娘に聞いても、そんな感じはなかったと不思議そうに言います。
先日は、適温のはずなのに熱すぎて湯船に入ることができなかったり、逆に温かいはずのお湯が水風呂のように感じて、寒くて飛び出してしまった*1こともありました。家族に言うと「ちゃんと適温になっている」と言うので、変だなと思っていました。お風呂は大好きだったのですが、こんなことが続いてからはなんだかお風呂に入るのが億劫になってしまいました。どうしたらいいのかなと考えて、お風呂に入る時間や方法を柔軟に変えることにしました。
長年、夜にお風呂に入るのが習慣でしたが、何も気持ち悪い思いや熱さを我慢して入る必要はありません。夜お風呂に入った時に気持ち良いと感じなければ、すぐに出て次の日の朝にお風呂に入ったり、シャワーだけで済ませるように切り替えました。

またある夏の日に、友人とカフェで食事をした時のことです。お店に入った途端、ものすごく寒く感じて*2、急いでかばんの中のカーディガンをはおりました。友人に「なんか、このお店冷房が効きすぎているね」というと、友人は「そう?私には暑いくらいだけど。」と額の汗をぬぐっています。
こんな風に、みんなが暑いと言っている時に自分だけ寒さに震えていたり、反対に周りの人が寒いと言っているのに、私だけ暑く感じて汗をかいているということが度々あります。
今は、暑くても寒くても、すぐに脱ぎ着ができる服を着たり、かばんの中に上着やストールを持ち歩くようにしました。

そうそう、この間友人たちとテニスを楽しんでいた時に、ちょっと熱中症気味になってしまったんです。ちゃんと水筒は持っていたのですが、水を飲みたいとか喉が渇いたという感覚がなくて*3、水分補給しないまま炎天下で運動し続けてしまったのです。目の前がくらくらして、初めて脱水に気づきました。友人たちがすごく心配していたので、「最近、喉が渇いたって感じないんだよね」と言ったところ、「そろそろ休憩して水分をとろう」と積極的に声をかけてくれるようになりました。

自分の感じ方が変化するということを自分で理解してからは、そのつど柔軟に対応できるようになって、困ることが減りました。周囲の人にも伝えておくと、さりげなく配慮してもらえるのでさらに楽になり、困りごとはずいぶん減りました。

Barrier:

「七変化温泉」に直面する背景には、
以下3つの認知症に伴う心身機能の障害が考えられます。

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Knowledge:

認知症のある方ご本人、支援者、家族、その他全ての人のこの課題解決のための知恵や世の中の障壁に関する情報を掲載します。皆さんの知恵の投稿もお待ちしております。

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世の中の障壁に関する情報を掲載します。皆さんの知恵の投稿もお待ちしております。

  1. 共創ハブ研究員の知恵

    2020.04.23 投稿

    お風呂に入る時間や方法を柔軟に変える

    共創ハブ研究員の知恵

    2020.04.23 投稿

    周りの人とは感じ方が違うということを理解し、家族にもそのことを伝え、自分が気持ちいいと感じる時にきちんとおふろに入るようにしました。どうしてもお風呂が気持ちよく感じられない時は、シャワーだけにしたり、体を拭くだけにするようにしています。

  2. 共創ハブ研究員の知恵

    2020.04.23 投稿

    暑さ寒さを服で調整する

    共創ハブ研究員の知恵

    2020.04.23 投稿

    その時々によって、気温や室温をどのように感じるのかは、自分にもわからないため、どのように感じても対応できるように、薄手のものを重ね着して、いつでも調節できるようにしています。そうしていれば、体調を崩すことも少なくなりますし、自分だけ体感温度を変えることができるので、家族や友人とも同じ空間で心配することなく過ごすことができます。

  3. 共創ハブ研究員の知恵

    2020.04.23 投稿

    休憩する時に声をかけもらう

    共創ハブ研究員の知恵

    2020.04.23 投稿

    自分の体の感覚に鈍感になっている部分があるようなので、水分補給をするときやトイレ休憩などは友人と一緒にとったり、声をかけてもらうようにしています。

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