Column: 03

トキシラズ宮殿

現代の竜宮城がここに!

2019.08.30

認知症世界。この世界には、気づかないうちにあっという間に時間が経過してしまう現代版・竜宮城があります。この場所で過ごしていると、ほんの3分くらいと思っていたら1時間たっていたり、まだ朝かなと思っていたら夜になっていたり、次々と不思議な時間の感覚に襲われ、時を見失ってしまうのです。

認知症の症状が出てからというもの、時間の感覚にズレがでてきたようで、そんなことが度々起きるようになりました。パンや魚を焼く時にも、麺を茹でる時にも、時を刻む感覚がこれまでとは異なるので、なかなかうまくはいきません。

先日もそうめんを茹でようと思い、お湯を沸かしてそうめんを入れて、そろそろ茹だったかなと思って見てみたら、すっかりのびて、もうフニャフニャです。1、2分茹でていたつもりが、いつの間にか10分以上経ってしまっていたのです。*1

料理に大切なもう一つのもの、それが舌と鼻、つまり味と匂いです。

煮物をする時には、味見をしながら作ってましたが、今では味が以前のようには敏感に感じられません。*2「まだ味が染みてないな」と思ってしまい、つい煮過ぎてしまったり、味付けが変になってしまうことがあります。

朝食のパンを焼いている時には、美味しそうな匂いがしてくると「あ、そろそろパンが焼けたかな?」と気づくことができましたが、今は匂いを感じることが難しくなった*3ため鼻で焼け具合を感じることができないのです。それに、バターを用意して、コーヒーも入れて、と他のものも同時に準備しはじめると、パンを焼いていたこともすっかり忘れてしまいます。*4黒焦げになっていても臭いがしないので、煙が視界に入るまでは全く気がつきません。*3

時間に惑わされ苦労しながらもなんとか料理を完成させ、食事を済ますのですが、その後も不思議な時間感覚が私の周りに漂っています。

午後、ソファーでくつろいでいたら、ついうとうとしてしまいました。気づくと窓の外は薄暗く、時計を見るともう6時。「朝まで寝てしまった!」と思ったら、まだ夕方6時でした*1
お腹が空いていたのですが、朝ごはんを作るのか、晩ごはんを作るのかわかるまで、少し時間がかかってしまいました*5(笑)

お料理は昔から大好きで、決まった食事の時間には、すべての料理が同時にできあがっていました。頭の中に自然に段取りが浮かんで、同時進行で手際よく動けたのです。ふわ〜と立ち上る匂いも味見の後の一工夫も料理の楽しみでしたが、もうそれはありません。体内時計の針の進む速度が不規則なので、誰かに言われるまで、本当の時刻とのズレに気づくことができないのです。

何か方法はないかと考えた私は、トーストや麺類ならタイマーできちんと時間を計り、肉や魚なら火が通っているかどうかを自分の目でしっかり見て、色で焼き具合を判断するようにしました。
私にとって、視覚は最適な調理時間を判断するのに大切な役割を果たすのです。

今は、自分の目とタイマーを頼りに毎日がんばって料理をしています。
お料理に体内時計をフル活用していたときには、タイマーがこんなに便利なものだとは思ったこともありませんでした。タイマーは私の体“外”時計となって、正しく時間を計ってくれますし、忘れてはいけないことを思い出させてくれる大事な道具です。

Barrier:

「トキシラズ宮殿」に直面する背景には、
以下5つの認知症に伴う心身機能の障害が考えられます。

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Knowledge:

認知症のある方ご本人、支援者、家族、その他全ての人のこの課題解決のための知恵や世の中の障壁に関する情報を掲載します。皆さんの知恵の投稿もお待ちしております。

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世の中の障壁に関する情報を掲載します。皆さんの知恵の投稿もお待ちしております。

  1. 共創ハブ研究員の知恵

    2019.08.30 投稿

    おしゃべりキッチンタイマー

    共創ハブ研究員の知恵

    2019.08.30 投稿

    時間をおしゃべりで教えてくれるタイマー。料理中の手が離せない時でも、残り時間をこまめに音声で教えてくれます。また、鼻をつまんだり、冷蔵庫を開け閉めするとおしゃべりしてくれて、キッチンに立つのが楽しくなりそう!
    https://www.hashy-topin.com/shop/knick-knacks/talking-item/kitchen-timer/ex-2886-blue.html

  2. 樋口直美さんの知恵

    2019.08.30 投稿

    キッチンタイマー

    樋口直美さんの知恵

    2019.08.30 投稿

    このキッチンタイマーは、途中でもピピッと短く音がするので、その都度火を使っていることを思い出させてくれて便利です。私は何かしている最中に他のことをすると、前にしていたことは忘れてしまいます。なので他のことをする前に必ずタイマーをかけます。音がすれば「あ、そうだ!洗濯物を干している途中だった」などと前の作業をすぐ思い出すことができます。

  3. 樋口直美さんの知恵

    2019.08.30 投稿

    樋口直美さんの知恵

    2019.08.30 投稿

    匂いがわからないので、肉や魚は、料理の途中でブツッと切って、色で焼け具合を見ます。
    サンマの塩焼きもステーキもバラバラになりますが、他に方法がないので、これでいいと思っています。
    味は一緒ですし。
    フグなど白身魚の干物は、元々白くて色が変化しないので、味見で判断します。

  4. fus.さんの知恵

    2019.08.30 投稿

    知恵とは。

    fus.さんの知恵

    2019.08.30 投稿

    つい眠ってしまい目を覚まして、夜の6時か朝の6時かわからず、うろたえるということはしょっちゅうある。夜寝ても3時間くらいで目が覚めてしまい、仕方なく起きて何か食べたりパソコンに向かったりして、数時間で急に眠くなり、また2時間くらい寝て目が覚め、起きて仕事をし、昼食を食べたら眠くなって寝る・・・、という日々。私は、最近の自分のこうした日々を「犬のような生活」と呼んで、愛しんでいる。犬たちは眠りたいときに眠り、起きたいときに起きる。人間はいつから、時間性のルールを作り出したのだろう。やはり恊働が必要になったときからだろうか。体内時計というけど、私には子供の時から、どうもそれが欠けていたような気もする。自分のペースでやっていると、いつだって人とずれていく。一般的に言って、子供は遊びに夢中になればいつまででも遊び続ける傾向はあるから、体内時計というのも、成長とともに訓練によって身に付くものなのかもしれない。社会生活をする上では必要なものなのだろう。今がいつだかわからなくたって構わないわ、と最近思う。どうしても必要なときは、誰かに聞けばいい。これが、知恵。

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