Column: 06

ミステリーバス

行くあてのないバスから あなたは降りられるか?

2019.10.11

認知症世界。この世界には、移動中に地理感覚を失ってしまう不思議なバスが走っています。このバスに乗り込むと、いつの間にか、自分が今どこにいるのか、どこから来たのか、どこへ向かうのかわからなくなったり、目的地で降りようと思ってもなかなか降りることができないという不思議な体験をするのです。

旅行先などで電車やバスに乗ると、今どこにいるのかわからず不安になり、降りる場所を度々確認ししてしまったりしませんか?

いつも乗っている電車でも、読書に夢中になっていたり、スマホを見ていたりすると、ついつい降りる駅を通り過ぎてしまうこともあります。

そんなことがないようにと集中して、バスに乗るようにしているのですが、最近、不思議なバス体験がよく起こるようになりました。
ある時、通勤のため、自宅近くのバス停から、いつもの時間に出るバスに乗り込みました。もちろん、通い慣れた経路なので降りるバス停はよくわかっています。

20分程度で着く所なのですが、その日は少し疲れていたのか、バスに揺られているうちに少しぼーっとしてしまいました。ふと我に帰った時、今自分はどこにいるか、どこに向かっているのか、どこから来たのか、すべてわからなくなってしまったのです*1。
外の風景や建物を見れば思い出すだろうと思って、キョロキョロ見回しますが、まったく思い出せません*2。それどころか、まるで見たこともない初めての場所に来てしまったよう。
一体このバスはどこに向かっている…?!

いつの間にか、いくつものバス停を通りすぎ、乗客も次々と降りていきます。
どこで降りるべきか最後までわからず、そのまま終点まで行ってしまいました。
終点で親切な運転手さんと話しているうちに、定期券を持っているはずだと思い付き、ようやく目的地がわかりました。折り返しのバスに乗り、大幅な遅刻でしたが、何とか会社にたどりつくことができました。

この前は、また違う体験をしました。その日は目的地を忘れることもなく、順調な道のりでした。
降り損ねないようにと、ひとつひとつバス停を確認していました。
そして、いよいよ次が私の降りるバス停です。
「よし!ここで降りるぞ!」と意気込んで、バスの降車ボタンを押そうとしました。
…ところが、頭ではボタンを押そうとしているのに、なぜか自分の腕が、ボタンに向かって伸びていかないのです*3。
まるで魔法にかけられたように…。私にとっては、まさにミステリー。

結局、押せないままに、無情にも私の目の前をバス停が通り過ぎて行きました。
降りる場所を絶対に忘れまいとする緊張感で私の脳が疲れ切ってしまい、 ”ボタンを押す“という脳からの指令が腕にまでとどかなかったのかもしれません。

そんな何とももどかしい思いをして以来、私は乗る駅と降りる駅を書いたメモをパスケースにいれ、首からかけて通勤することにしました。そこには、認知症のため困っている時は手助けをお願いしたいということも書きました。

いまでは、バスに乗って、行き先がわからなくなったりした時には、まず自分でパスケースを見て、行き先を確認します。
それでもわからない時には、近くの人にパスケースのメモを見せながら、「ここまで行きたいのですが、このバスであっていますか?」と尋ねます。すると「それならあと2つ先ですよ」などと教えてくれ、その後も「次のバス停ですよ」と言って降車ボタンを押してくれる人もいます。
ちょっと人見知りな私でも、メモを見せながら話すと声をかけやすいですし、誰も変な目で見ることはなく、親切に教えてくれます。これならミステリーバスに乗っても安心だなと思っています。

Barrier:

「ミステリーバス」に直面する背景には、
以下3つの認知症に伴う心身機能の障害が考えられます。

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Knowledge:

認知症のある方ご本人、支援者、家族、その他全ての人のこの課題解決のための知恵や世の中の障壁に関する情報を掲載します。皆さんの知恵の投稿もお待ちしております。

認知症のある方ご本人、支援者、家族、その他全ての人のこの課題解決のための知恵や
世の中の障壁に関する情報を掲載します。皆さんの知恵の投稿もお待ちしております。

  1. 丹野智文さんの知恵

    2019.10.11 投稿

    行き先とアルツハイマー病であることを記したパスケース

    丹野智文さんの知恵

    2019.10.11 投稿

    定期ケースの表側には「バス・地下鉄・電車の行き先」と「若年生アルツハイマー本人です。ご協力お願いいたします。」と書いてある紙、裏側には「住所」「名前」「電話番号」が書いている紙を入れて持ち歩いています。これを見せると、認知症であることを理解してもらえますし、行き先を見て相手が案内してくれるので、とても助かっています。また、家の近くで道に迷った時には、タクシーを拾って自宅の情報を示すことで、帰ることができるので安心して出かけられます。

  2. 丹野智文さんの知恵

    2019.10.11 投稿

    ヤフーの乗り換えアプリ

    丹野智文さんの知恵

    2019.10.11 投稿

    出かける時は、必ず事前に乗り換えアプリで経路を調べ、すぐに紙に書いてメモをしておきます。もし、調べたことを忘れても、何度でも調べられるので便利です。ヤフーの乗り換えアプリは、途中の駅名が全部出て、今、どの駅かも出るのでとてもわかりやすいです。

  3. 樋口直美さんの知恵

    2019.10.11 投稿

    ヘルプマーク

    樋口直美さんの知恵

    2019.10.11 投稿

    カバンには、常にヘルプマークを付けています。自律神経障害があるため、混んだ電車やバスでは急に体調が悪くなることがあり、特に帰路では疲れ切って立っていられなくなるので、優先席へ行き席を譲ってもらっています。優先席に座っている間もヘルプマークを周囲に見えるようにしておけば、「高齢者でも身体障害者でもないのになぜ座っているんだ」という目を向けられずに済みます。朝夕のラッシュアワーには乗らない、疲れる前に帰宅するなど色々気を付けてはいますが、ヘルプマークがあることで毎回助けられています。

  4. 樋口直美さんの知恵

    2019.10.11 投稿

    パスケースはカバンにつける

    樋口直美さんの知恵

    2019.10.11 投稿

    調子の悪い時、パスケースを何度か落としたので、それ以降は、しっかりとカバンにひもでくくりつけています。そうすることで、慌ててカバンの中を探すこともなくなりました。安心していられ、ストレスがぐっと減りました。

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