Column: 11
二次元銀座商店街
誰もが迷い、寄り道しながら歩く町
2020.03.28
認知症世界。この世界には、歩いているうちに方向や距離の感覚を失い、何度訪れても必ず迷い、寄り道をすることになる、摩訶不思議な商店街があるのです。この街では、目の前の風景がまるで平面の絵のように見え、東西がふいに入れ替わってしまったり、平面の絵のように奥行きが消えてしまったり、案内表示があっても見えなくなってしまったり、不思議なことが次々と起こるのです。二次元なので、自分や目的地を空から俯瞰した地図ももちろん存在しません。誰もが目の前の風景をゆっくり味わい、寄り道と出会いを楽しみ、行き交う人の助けを得て、時間をかけて少しずつ目的地にたどり着くのです。
地図を読めない人は案外多いですよね。最近は多くの人がスマホの地図アプリを使っていますが、それでも、逆の方向に歩いてはまた戻る、なんてことがよくあります。地下から地上に上がると、方向感覚を失うことも。生まれつき地図を見るのが苦手な人、道に迷いやすい人がいるように、方向感覚・距離感覚には生まれつき個人差がありますし、疲れていたり睡眠不足の時などは、誰でも、思わぬ勘違いをしがちです。
その日は、隣の駅にあるいつもの美容院に行くため、一人で家を出ました。いつもの電車に乗って駅に到着。ところが、駅を出てから自分がどちらの方向に向かえばいいか全く見当がつきません*1。そこで、目の前に立っていた地図で確認することにしました。現在地はここで、向こうにはデパートがあってと考えながら、地図と目の前の風景を交互に眺めるのですが、頭の中でこの2つがどうしても重なりません*2。
最近、地図が読めないことがよくあるので、道に迷わないように行き先の情報を先に調べておいて、スクリーンショットでスマホの画面を写真に撮るようにしています。
でも先日、大きな駅に着いたとき困ってしまいました。「A7出口から出て直進」と書いてあったので、キョロキョロ見渡すと「A7↑」というサインが見つかりました。後から落ち着いて考えると「↑=直進」だとわかるのですが、その時の私には、この矢印は天井を指しているとしか思えなかったのです*2。「何なの、これ?! どうしよう」と周囲を見ると、今度は斜め上に伸びた矢印「↗」。「斜め上に行くって、どういうこと?!」*2。頭が混乱してしまい、もうこの駅から出られないような気がして、とても焦りました。その時、通りがかりの親切な女性が「何かお困りですか?」と声をかけてくれて、私をA7出口まで案内してくれました。
また、近所の大型ショッピングセンターに出かけた時のことです。急にトイレに行きたくなって、急いでトイレのマークを探しました。でも、どこにもトイレのマークがないのです*3。何度も同じ場所をぐるぐる歩き回っていると、突然、トイレのマークが目に飛び込んできました。そこは、何度も通って探したのに、なぜ見つけられなかったのか、自分でもわかりません。ただその時までは、どれだけ探しても、私の視界に入ってこなかったのです。
そうそう。ショッピングセンターにはたいてい車で行くのですが、駐車場も一苦労です。あの白い線の枠の中に、上手に車を停めるのは大変です。どのくらい奥まで車を入れたらいいのか*4、左右の車との距離は同じか*5、どちらの方向にハンドルを切ればいいのか*1、頭の中が混乱してしまうんです。また、少し前からは、前方の車との距離感が掴むのが難しくなってきたので、できるだけ距離を空けて運転するようにしています*5。でも最近、距離を一定にキープする機能、自動的にブレーキが発動する機能、車庫入れをサポートしてくれる機能がある半自動運転機能付きの車に買い替えたので、運転はかなり楽になりました。
最近、少しショックなことがありました。もう何年も通い慣れた通勤の途中で迷ってしまったのです。駅から会社に向かって歩いていると、いつもあったウェディングのお店が見当たらない…。その日はシャッターが下りていてショーウィンドーのウエディングドレスが目に入らなかっただけだと後でわかったのですが、その時はそんな小さな変化がとてつもなく大きい違和感となって足が止まってしまいました*6。ここはどこなのか確かめようとじっくりとあたりを見回したのですが、こんなお店あったかな?こんな細い道だったかな?*7この道は本当に会社に向かっているのか?と疑問と不安が湧き上がってきました。次第に絶対にどこかで道を間違えたんだ!という思いが膨らみ*8、その場に立ち尽くしてしまいました。その時は、たまたま後ろから歩いてきた同僚が声をかけてくれたたので、助かりました。
そんな私は、最近、写真で作ったオリジナルマップを家族と一緒に作りました。会社や自宅、病院など、よく訪れる場所までの道のりを家族と一緒に歩きながら写真を取り、後でプリントアウトした大きな写真の上に目印とメモを貼り付けたものです。
この地図があれば、歩きながら見えてくる建物などを手掛かりに、写真と照らし合わせて目的地まで一人で進むことができます。もし迷っても、この写真を見せて、人に尋ねることもできます。こうやって、少しずつ街を攻略していくつもりで、楽しく工夫を重ねています。
Knowledge:
認知症のある方ご本人、支援者、家族、その他全ての人のこの課題解決のための知恵や世の中の障壁に関する情報を掲載します。皆さんの知恵の投稿もお待ちしております。
認知症のある方ご本人、支援者、家族、その他全ての人のこの課題解決のための知恵や
世の中の障壁に関する情報を掲載します。皆さんの知恵の投稿もお待ちしております。
丹野智文さんの知恵
2020.03.27 投稿
行き先の情報を、スクリーンショットでスマホに保存
丹野智文さんの知恵
2020.03.27 投稿
事前に目的地を調べた時に、その情報をスクリーンショットしてスマホに保存しておきます。そうすると、忘れてしまっても写真フォルダーをチェックするだけで済みます。また、目的地の名前だけでは、それが一軒の店なのか、ビルなのか、マンションなのかがわからず、探すのに苦労します。なので、必ず目的地の外観の写真を見て保存しておくようにしています。最近この話をしたところ、待ち合わせをしている相手の方から、事前に画像を送ってくれることがあってとても助かっています。
共創ハブ研究員の知恵
2020.03.27 投稿
半自動運転機能付き自動車「サポートカー」
共創ハブ研究員の知恵
2020.03.27 投稿
衝突するリスクを軽減したり、ペダル踏み間違えた時の加速抑制装置等を備えた車が増えています。日本では、2021年11月より、自動ブレーキ搭載を普通車にも搭載することが義務化される方向にもなりました。こちらのサイトでは、そのような安全運転サポート車を「サポカー」という愛称で呼び、わかりやすく紹介してます。
共創ハブ研究員の知恵
2020.03.27 投稿
写真で作ったオリジナルマップ
共創ハブ研究員の知恵
2020.03.27 投稿
目印となる建物や看板を撮影し、歩きながら見えてくる順番に並べた写真地図を家族と一緒に作り作りましょう。地図には、「この看板が見えたら左に曲がってね!」」などのコメントも付いているので、とてもわかりやすくなります。また、最近は、お店のアクセスページに、写真付きの道案内が乗っていたり、道案内動画が増えていて、とても助かります。
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心配しすぎる
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