Living well with Dementia

認知症を持つ本人同士が出会い、つながって、さまざまな立場の人たちとともにつくる、よりよく生きるための活動の数々を、大小問わずご紹介していきます。

vol. 2

さざなみから大きなうねりへ

『希望のリレー』を知っていますか?

なぜ「希望」なの?

 今からちょうど1年前の、2018年10月、日本認知症本人ワーキンググループ(以下、JDWG)のメンバーにより、「認知症とともに生きる希望宣言」がまとめ上げられました。そして、同年11月1日には、厚生労働省内で記者会見を行い、これを表明しました。
 「希望」と聞いて、一体なんのことだろうと不思議に思ったり、わざわざ宣言しなければいけないことなのかと驚いたりした方もいたかもしれません。
 
 宣言の内容は、以下のようになっています。
 


認知症とともに生きる希望宣言

    1.自分自身がとらわれている常識の殻を破り、前を向いて生きていきます。
    2.自分の力を活かして、大切にしたい暮らしを続け、社会の一員として、楽しみながらチャレンジしていきます。
    3.私たち本人同士が、出会い、つながり、生きる力をわき立たせ、元気に暮らしていきます。
    4.自分の思いや希望を伝えながら、味方になってくれる人たちを、身近なまちで見つけ、一緒に歩んでいきます。
    5.認知症とともに生きている体験や工夫を活かし、暮らしやすいわがまちを、一緒につくっていきます。

(それぞれの項目に趣意も加えられた詳しい紹介はJDWGウェブサイトへ)

 
 12年前にアルツハイマー病の診断を受けた、JDWG代表理事の藤田和子さんは次のように述べています。
 
 「この宣言は、これまでつながりを育ててきた認知症の仲間たちとともに、声を寄せ合い、話し合い、まとめ上げたものです。」
 
 認知症をもつ本人の発信に勇気付けられ、自分も発信したり、なんらかの活動を始めたりする人たちが、いま各地に少しずつ増えています。JDWGの仲間も、立ち上げ当時は数名から始まったのが、今は約30人になりました。そんな人たちの経験から生まれた宣言なのです。藤田さんはこう続けます。
  
 「この内容は、夢のような理想ではなく、私たちが実際に体験してきた、苦しみや悲しみの先に、見出した希望の数々です」
 
 終わりがないように思えたトンネルの先にこそ、見えた光。でも、できれば、後に続く人にはこんな思いをせずに、もっと楽に、よりよい人生を送ってほしいという、願いが込められています。
 希望といっても決して大それたことではなく、「何気ない日常が、静かにでも続けていける。その中で、小さなことでも、楽しいな、幸せだなと思える瞬間があり続けることが、希望のある人生につながっていくと思うんです」とも言います。

宣言から1年 希望のリレーは続く

 「認知症とともに生きる希望宣言」には、もう一つの決意表明がなされていました。希望宣言のA4サイズのリーフレットには、こう書かれています。
 
 「わたしたちは、『認知症とともに生きる希望宣言』をもとに、全国で『希望のリレー』プロジェクトを展開していきます」
 
 実は、希望宣言自体が、これまで認知症になった人たちから受け継がれたバトンのようなものでもあります。
 藤田さんは振り返ります。
 
 「今回の希望宣言は、突然生まれたものではありません。すでに10年以上前から、私たちより一歩先に認知症になった方達が声をあげはじめ、この声をあげ始めた人たちが少しずつ全国に増えて、そしてつながって、できたものです」
 
 仲間がゆるやかにつながり、発信することで、全国各地に暮らす認知症の本人に希望を届けるとともに、各地に活動の芽が出て育つきっかけづくりを目指す、その傍に「認知症とともに生きる希望宣言」が加わって、1年。
 メンバーが講演会や研修などに出向き、全国各地に暮らす認知症の本人、全国の自治体や、地域、多様な領域の人に希望宣言を、さまざまな形で伝えてきました。
 その講演を聞いて、自らも認知症の人や家族からの相談を受ける活動を始めたという人もいれば、希望宣言をじっくり読み込んで、その土地の言葉で表現する、“お国言葉で希望宣言”の話なども上がってきているとのこと。
 また、希望のリレーをつなぐかたちで、認知症をもつ人たちと一緒にまちづくりを始めた、和歌山県御坊市の活動は、今年4月に施行された「認知症の人とともに築く総活躍のまち条例」でも知られています。
 希望宣言のリーフレットを開くとまず目に飛び込んでくる「一足先に認知症になった私たちからすべての人たちへ」という言葉のとおり、あらゆる人がつなぎ手となって、希望のリレーがじわじわと広がってきているところです。

 

記者会見の様子
2018年11月1日に開かれた、日本認知症本人ワーキンググループによる「認知症とともに生きる希望宣言」表明の記者会見。向かって左が藤田さん。

 

希望宣言のリーフレット
リーフレットは、JDWGウェブサイトからダウンロードもできます。
 

Information

東京都八王子市で認知症に関連したパネル展「認知症になっても安心して暮らせるまちをめざして」を開催中。八王子市役所本庁舎にて、で2019年9月30日〜10月11日に、「認知症とともに生きる希望宣言」「希望のリレー」パネルも展示されています。