共創ワークショップ 第2回開催レポート(後編)

2019年11月に開催した第2回共創ワークショップの様子を前編(こちら)に引き続きお届けします。

後編として、認知症のある方が移動中に「これは良かった」と感じた点や、移動する際に普段から心がけている知恵と工夫などをご紹介していきます。
 
まずは、認知症のある方が移動中に「これは良かった」と感じたものを、2つ紹介します。

【良い点①:シンプルな通りの名称看板】
神田すずらん通りは「すずらん」が覚えやすかったそうで、看板や大きな名称が入ったアーケードも手伝い、通りを見つけるのに役立ちました。

【良い点②:新幹線名古屋駅構内の配置】
新幹線名古屋駅は、改札を通ってすぐの場所に、多目的トイレとエレベーターがあるそうです。山田さんチームは、この改札口、多目的トイレ、エレベーターの配置に、大絶賛でした。

 最後に、6名の認知症のある方が、移動する際に普段から心がけている知恵と工夫を、紹介いたします。

【知恵と工夫①:困難なルートを選ばない】
目的地へのルートが複数ある場合、混む駅(東京駅など)をわざわざ乗り換え駅に選ばない、方向を確認するための風景が見えない地下鉄を選ばない、という工夫が見受けられました。また、匂いに敏感なHさんは、いつもタバコの匂いが充満しているエリアを避けたルートで駅に向かうなど、自分の経験を活かして、移動を快適にする工夫をしていました。

【知恵と工夫②:人に聞く】
ホームが分かりにくい、エレベーターが分かりにくい、と駅で迷ったら、すぐに人(メンバーを含めた同行者)に聞く行動も多々見られます。

【知恵と工夫③:電車の進行方向に向かって立つ】
電車に乗る時は、必ず進行方向に向かって立つようにしています。途中でトイレに行くために降車した場合、自分が立っていた方向の景色を頼りに、また電車に乗る事ができます。

【知恵と工夫④:ICカードの収め場所を決める】
ICカードの収め場所を、バッグに二箇所あるポケットのどちらかにしまうというルールをMさんが設けていました。乗り換え時にICカードが必要な時も、すぐ見つかります。

【知恵と工夫⑤:バンダナやイヤホンで、大きな音を防ぐ】
聴覚が敏感なHさんは、街の喧騒、トラックの走行音など大きな音が苦手なので、バンダナを頭部に巻き、耳を隠して突発的な騒音を防ぐ工夫をしています。また、地下鉄に乗る時は、耳栓を持参し、環八など幹線道路を歩く場合は重めの音が流れるイヤホン、閑静な住宅街を歩く場合は軽めの音を流すイヤホンを着けるようにしています。

ワークショップの締めくくりでは、認知症のある方6名による振り返りと、移動に付き添ったメンバー達による振り返り、2つの視点から気づきと感想を共有しました。
 
〜認知症のある方6名の振り返り〜

  • 東京駅は特別に人が多く、スピードが速いので、大変怖い。高齢者向けのスローラインがあるなど、違うペースの人達への配慮が欲しい。
  • 「バリアフリーに力を入れていかなければならない」と、ずーっと言われているが、なかなか実現していない。バリアを無くしていく事の重要さを改めて感じた。
  • 認知症がある事を周囲に伝えることにためらいがあったり、伝えたくてもなかなか言葉が出てこない場合があるため、見えない障害を持つ人が自分からSOSが出せる(Lineアプリなどではない)方法があると良い。
  • ほかの認知症のある方と困難を共有することで、皆でそれを改善しようと、ポジティブになれると感じる。
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    〜移動に付き添ったメンバー達の振り返り〜

  • 移動一つとっても、認知症のある方々の個人差が大きい事を初めて知った。
  • 気づかえば気づかうほど、混乱させている駅構内での情報の表示が気になった。「親切」と「使いやすい」は違う。
  • 「cmapper」によって、移動困難のデータを取れた事に成果を感じるが、認知症のある方々にデータをどうフィードバックしていけるのかが、これからの課題。
  • 「課題解決した暁には、こんなシナリオが待っているよ」というイメージを共有しながら人を巻き込んでいけると良いと思う。
  • 認知症のある方の困りごとは、他の機能障害とも通じるところがあり、物理的に変わると、多くの他の方々にとってもフレンドリーな環境にする事ができる。
  • 認知症のある方の内面にあるもの、感情的な意見も聞いて、パターンや傾向をもっと知りたいと思った。
  • 認知症のある方々からの直接の意見は、「きれいで格好良いまちづくり」ではなく、「丁寧なまちづくり」のきっかけになる。
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    今回のワークショップは、移動プロセスを可視化するために、ご家族との事前準備、公共交通手段を乗り継ぎ、決して楽ではない場所にわざわざお越し頂く大変なプロセスを経て、実現する事ができました。
    そして、このような共創ワークショップの数を重ねる事で、認知症のある方同士のつながりと、具体的な行動も生まれるという嬉しい動きも出ています。認知症のある方自身も活躍し、生活する地域で周りの人とつながり、「SOSが自分で出せる」ネットワークづくりに、自ら取り組んでみたいという意欲も生まれているそうです。
    共創ワークショップでの対話をきっかけに、認知症のある方ご本人が「やりたい」を形にするためのマイプロジェクトを企画、パートナーや地域の人たちがサポーターとなって「第1回UNIコン」も開催されました。
     
    認知症未来共創ハブが掲げる「認知症とともにより良く生きる」という目標に、認知症のある方もない方も、双方から歩み寄って行く足音がほんの少し聞こえてくるような、第2回共創ワークショップでした。次回の共創ワークショップも、どうぞご期待ください。