共創ワークショップ第3回開催レポート(後編)

2019年11月に開催した第3回共創ワークショップの様子を前編(こちら)に引き続きお届けします。
 

 各チームのインプット・トークの後は、「山田さんの大冒険」と銘打った、インプット・トーク第二弾を行いました。山田さんは名古屋にお住まいの為、長い道のりを経て毎回共創ワークショップに参加してくださっています。共創ワークショップ第2回のレポートに、名古屋から新幹線に乗って、東京神保町まで来るプロセスをまとめていますので、是非ご覧ください。
 インプット・トーク「山田さんの大冒険」では、“あたりまえを実現できる社会へ” がメッセージとなりました。山田さんは、認知症の影響で自分の席が分からなかったり、トイレの場所が分からず自分一人では行くことが出来ないなどの理由で、息子さんの結婚式に出席する事を躊躇していたそうです。式場のスタッフに認知症を理解していただく事で、式当日は不安も払拭され、母親としての役目を無事に果たす事ができました。
お孫さんが生まれた時には、「うまく抱けるだろうか」という不安もありましたが、通所するデイサービスで赤ちゃんの人形で練習してから抱っこに挑んだそうです。家族の結婚式に出る、孫を抱っこするなど、私達が当たり前と考える事を、認知症がある事であきらめない社会を実現する事が、山田さんの願いです。

”あたりまえを実現できる社会へ” というメッセージと共に、移動だけでなく、息子さんの結婚式に出席した時や、お孫さんを抱っこする時などの不安や悩み、その解決方法を話してくださいました。

 いよいよチームごとのワーク開始です。まずは、認知症のある方100人インタビューをもとに作成された32枚の心身機能障害カードから、アイデアを出していきます。「ディスプレイと音で道案内してくれるメガネ」や、「会話をしていると自動的に入力されるスケジュール・カレンダー」など、認知症の障害を解決できるようなプロダクトやサービスのアイデアが、付箋にどんどん書き出されていきました。そして出てきたアイデアは、心身機能障害別にまとめていきます。

32枚の心身機能障害カードから、まずは個人で思いついたアイデアを付箋に書き出していきます。

アイデアを書いた付箋を、チーム内で心身機能障害別にまとめていきました。

32の心身機能障害別に、様々な解決の為のアイデアが集まってきました。

 付箋で集まったアイデアを、さらに具体的なカタチやイメージにする為、プロダクトやサービスのイメージに描いていきます。家族とワイヤレスフォンでつながり、約束の時間や位置情報を教えてくれるバッジ型のお出かけデバイスや、外出時のトイレ課題に対して、自分がどれくらいトイレに行っていないか、何時頃にトイレに行っておいた方が良いか、近くのトイレはどこかを教えてくれる腕時計などのイメージが、描かれていきました。

32の心身機能障害別に集まった付箋アイデアから、具体的なプロダクトやサービスを「未来シート」に描いていきます。

 さらに、5名のグラフィックレコーダー達が、各チームの「移動」アイデアの全体イメージを描いていきました。大きな模造紙に下の3つを盛り込みながら、未来へのワクワク感が得られる一枚絵を完成させていきます。
 
①チーム全体で見えてきた未来の移動のコンセプトワード
②チーム内で盛り上がった移動の世界観とメインになるアイデア
③未来シートに描かれなかった、ミニアイデア

ワーク中にチームで盛り上がったアイデア、未来シート、付箋の総論となる「コンセプトビジュアル」を描きはじめる、グラフィックレコーダー達。

 最後に、出来上がったビジュアルを前に、5チームの発表です。
  
 最初のAチームは、コンセプトワードを「優しい社会 !! 鳥(ちょう)良い社会」とし、「鳥」がメインアイデアとなりました。この鳥の正体は、外出時に肩にのって誘導してくれる、案内ロボット「ぴよりん」です。ぴよりんが居るステーションに向かうと、ぴよりんが肩にのって、複雑なホームや出口を案内します。用事が済んだら、ぴよりんは自分で飛んでステーションに帰る、という仕組みです。全体にあるアイデアは「ICT(情報通信技術)で認知症のある方を支える」ですが、ICTだけではなく、優しい人に囲まれるための啓発活動が大切と語ってくれました。

〜Aチーム:移動の未来アイデア〜

  • ICTでサポートされた “おでかけ”(MaaS|モビリティ・アズ・ア・サービス):お出かけ時に路線検索すると、スマホに必要な運賃分がチャージされ、路線案内情報が入る。移動中はスマホとウェアラブル・スピーカーからホーム案内と電車から降りるタイミングが発信される。駅を出るとタクシーが待っているなど、移動を全てICTでサポート。
  • お出かけ時に路線検索すると、街のバリア情報も検知される。
  • 認知症のある方に優しく近づいてくる街:一段ずつ色分けされた階段、階段のどこに足を置くか分かるフットマークの入ったデザイン、渡ろうとすると青信号が長くなる横断歩道。
  • 電車の中のニオイも脱臭すると、認知症のある方だけでなく、一般の方にも喜ばれる。
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     Bチームは、アイデアを2つに整理してくれました。1つは「困っている人と助けたい人のコミュニケーションが圧倒的に足りない」という課題に対するアイデアと、もうひとつは「少なく、ゆっくりでも良いという価値観の多様性」を生み出すアイデアです。例えば、妊婦や障害者など外出時に手助けを必要とする人と、周囲の手助けをしたい人をマッチングするアプリ「&HAND(アンドハンド)」のような、困っている認知症のある方にも周囲がサポートできる仕組みや、外出時に気温に合わせた服装をしていなくても、羽織れるものを借りる事ができるシェアウェアなどのアイデアを発表してくれました。

    〜Bチーム:移動の未来アイデア〜

  • チャーミングなブローチ型のお助けエージェント「ヘルプメェー」:予定・位置情報・降りる駅・トイレの位置・自動車の位置などをアラートでお知らせしてくれる。降車案内をしながら、駅の中などでの迷うパターンを蓄積していく「軌跡ログ」の機能も兼ね備えている。ICカードのオートチャージと連動し、お財布機能付き。家族やパートナーも操作決定が可能。
  • 外出時に活躍する、洋服シェアサービス:貸し傘のように洋服も共有する発想で、用事が済めば返却するシステム。
  • 認知症のある方に優しく近づいてくる街:歩いているうちは赤にならない信号機、一段ずつ色を変えて足もとを表示したり、ゆっくりレーンのある階段など。
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     Cチームは、いますぐできるアイデアを披露してくれました。チーム内での「海外はクルマ侵入禁止領域が結構ある」という話題から、歩く人にもっとやさしいまちづくり「アルク・ファースト」や、バスを利用する際、降車時にボタンで降りたいと知らせるのではなく、乗車時にあらかじめ降りる停留所ボタンを押して、乗り過ごさずにすむ仕組みを考えました。大掛かりな投資やテクノロジーを駆使する必要なく、すぐに実現すべきことを行うべき、と発表していただきました。

    〜Cチーム:移動の未来アイデア〜

  • アルク・ファースト:車が一切侵入しない、安全な歩行者専用道路の設置。
  • 降車逃しゼロ!:バスに乗る際に、降りる停留所を先に知らせておく仕組み。バスの降り忘れを未然に防ぐ。
  • お出かけ時の相棒、案内ロボット:目的地まで案内してくれるロボットで、荷物も持ってくれる。音や光で道案内。
  • 次のトイレはここで決まり!:トイレの問題で外出をあきらめる人が多いため、考え出されたアイデア。自分の膀胱の状態を腕時計で知らせ、トイレに行くべきタイミングを教えてくれる。自分が居る場所から一番近いトイレも案内してくれる。
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     Dチームは、多様性が広がる社会の一人ひとりが、ありのままで、シンプルに生活する暮らしを理想に掲げました。その理想を叶える為、テクノロジーとアナログのバランスを取り、普段から声をかけあい、見守りあい、助けあえる人のつながりを保つ事が重要、とDチームは考えました。例えば「ヘルプカード」だけでなく「ヘルプするよカード」も必要で、テクノロジーで社会が良くなっても、それだけではなく、人も良くなる必要があるという意見でした。

    〜Dチーム:移動の未来アイデア〜

  • One to One 移動サポート:移動する人に必要な情報だけを見せるデバイス(スマホやメガネ、コンタクトレンズなど)。
  • 助ける・頼るが “あたりまえ” のヒトの進化:ヘルプカードだけでなく、声かけていいよ! 助けますよ! という意志をサイン等で示す。
  • 新しくて懐かしい未来図:クルマ・歩行者分離型の街、スロープ型建築、移動中は街や乗り物の方がどこで降りるかを把握していて、降車ボタンは要らない。
  • お出かけせずとも目標達成:目的側の方がやってくるモビリティ社会。市役所やお店が可動式で必要な時にやってくる。
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     Eチームは、ヘルプが必要な人と助けたい人の周りにテクノロジーがある、「ひととTechで、E社会!!」というテーマを打ち出しました。困っている人を助ける手段は、テクノロジーで解決できる場合が増えていくなか、困りごとがある人と助ける人が信頼関係を築きやすい社会が重要になると考えています。困っている人側も、もっと周囲を頼って、周囲に伝える必要があるという事から、「MOVOICE(ムーボイス)」というアプリで認知症のある方が考えている事を言語化したり、スマホを相手に「〜〜したい」「〜っていつだっけ?」と、認知症のある方がヘルプを求める為の練習機能を考えました。

    〜Eチーム:移動の未来アイデア〜

  • トラベルコンダクター・駅案内マスター:旅行や移動に同行し、困りごとを助けてくれるサポーター。困っている人が他の人に頼りやすくできる、環境を整える。
  • 飛行石ライトナビ:自分の行きたいところだけを、矢印や図を示してナビしてくれる、飛行石のようなライト。
  • いつでもフラットシューズ:どんなところでも段差をなくしてくれる靴。
  • 想像予約機能:頭にあるスケジュールや約束を、自動的に予約してくれるシステム。
  • 設備の共通規格:どんな駅に行っても改札右側にトイレがあるなど、共通した設備規格。特に駅構内の矢印表示は分かりにくいので、ランドマーク(たとえばスカイツリー)を表示したり、鼻の向きで方向を示す「ノーズ・シグナル」を提案。
  •  今回の共創ワークショップは4時間半という長時間に及びましたが、各チーム意見が絶えることなく、参加者の皆さん全員が熱心に取り組んでくだいました。付箋に書いたアイデアはどんどん具体的な絵に描かれ、最後は「認知症にやさしい社会」というワクワクする未来イメージを共有するプレゼンテーションで締めくくることができました。認知症のある方とのリアルな対話から引き出された「認知症にやさしい社会」のタネは、これからも未来へとつなぎ、すべての人々が安心できる社会の実現を引き続き目指してゆきます。

    第3回共創ワークショップ
    開催日:2019.11.28
    場所:認知症未来共創ハブ 東京堂ホール 神保町
     
    レポート:田中 美帆(多摩美術大学 ソーシャルデザイン論 講師)