<POINT>
・2020年5月12日に、認知症政策に関する総務省による第三者評価の結果および結果に基づく勧告が公表され、認知症初期集中支援チームおよび認知症疾患医療センターに関して言及がなされた。
・日本の政策評価制度は、各省庁で行う内部評価と総務省が実施する第三者評価に大別され、今回はこの第三者評価としての政策評価結果に基づき勧告が行われた。
・政策結果の責任は、選挙を通じて政策決定の代表者を選出した市民社会も負わなくてはならず、政策の改善に向けて私たちもアクションを起こす必要がある。
はじめに
前回のコラム(参照:vol.13「国際社会の認知症政策の現在地」)では、国際アルツハイマー病協会(ADI: Alzheimer’s Disease International)による、世界各国の認知症政策に対する評価を取りまとめた最新レポート「From Plan to Impact III – Maintaining dementia as a priority in unprecedented times-」を紹介しました。日本は先進的な認知症政策が推進されているとされ、その評価はSTAGE1~5のうち「5A」となっています。最上位の「5B」まであと一歩のところに位置していますが、財政措置や政策評価における改善が今後の成長ポイントとして示されました。今回は、日本の政策評価制度における認知症政策の評価について最近の事例を基にご紹介します。
日本の政策評価制度
日本の政策評価制度は、大きく内部評価と第三者評価に大別されます。内部評価は各省庁が評価対象とする政策を定め、政策の性質に応じて事前・事後評価を実施します。一方、第三者評価は、複数機関にまたがる政策を対象とし、政府全体の統一性や一体的な推進を必要とする政策や客観的かつ厳格な評価を必要とする政策について、総務省がその政策を評価するものです。それぞれ、内部評価は国家行政組織法および内閣府設置法、第三者評価は総務省設置法に規定され、またこれらの法律を機能させる行政作用法として「行政機関が行う政策の評価に関する法律(以下、政策評価法)」が規定されており、この政策評価法に基づき政策評価に関する基本方針およびガイドラインが策定されます。
総務省における認知症政策の第三者評価の実施
さて、2020年5月12日には下記の通り、認知症政策に関する総務省による第三者評価の結果および結果に基づく勧告が公表されました。
これは総務省が2018年8月から行った「行政評価局調査」の結果に基づき、総務大臣から厚生労働大臣へ勧告したものです。実際に2018年7月31日付で総務省のwebサイトにも調査を開始する旨が記載されています。
第三者評価を担当する総務省行政評価局では、評価業務の基本方針を「行政評価等プログラム」として定め、具体的に特定のテーマに絞って集中的に調査を行いその結果を公表、改善を促す「行政評価局調査」のほか、各府省の内部評価の点検を行う「政策評価の推進」、そのほか担当行政機関とは異なる立場として、総務省が国民から行政などへの苦情や意見、要望を受け、その解決や実現を促進するとともに、行政の制度や運営の改善に生かす仕組みである「行政相談」を行っています。2018年に行われた行政評価局調査では上記の調査のほか「学校における専門スタッフ等の活用に関する調査」が同様に行われました。この一連の調査結果を受けて、厚生労働大臣宛ての勧告に至ったものです。
続いて調査結果およびその結果に基づく勧告について概要をご紹介します。2018年8月からの行政評価局調査では「認知症初期集中支援チームの運用実態」「認知症疾患医療センターの評価」の2項目について調査が行われ、総務省の調査結果及び勧告は以下の通りです。
ネクストステップは市民社会の働きかけ
さてこれらの勧告に対し、今後どのような政策改善が行われるのかを、追いかける必要があります。第三者評価とは言え、これは総務省という行政内部の評価にすぎません。こうした評価やそれを受けての改善に向けた対応などにより強制力を持たせようと思えば、立法、行政、司法に並ぶ4つ目の統治機構としての政策評価機関を創設することも選択肢としてはあり得るでしょう。しかし、実際に政策を執行するのは行政であり、もっと言えばその決定の責任は立法(国会)にもあるといえます。そのため政策評価の責任は、行政のみが抱えるものではなく、立法にも責任があるのです。
つまりそれは選挙を通じて代表者を選出した私たち国民にも、その責任は帰するところになりますから、こうした政策評価を踏まえ、改善に向けてアクションが起きているかを私たちはチェックしなくてはなりません。
著名な政治学者である丸山正男の著作に次のような一節があります。
丸山正男は市民社会の「不作為の責任」を指摘します。私たちが1人1人の力では大したことないと思って、政治・政策の改善に向けた請願や提案をしなくなれば、結局はそれが積み重なって大きな違いを生み、当初思い描いていたものとは大きくかけ離れてしまいます。「何もしない」ということの責任は実は大きいのだと説いています。
こうした勧告に対する今後の行政・立法のアクションを注視する、そして現場の実情や想いを伝えていく、という姿勢を大切にしたいと改めて感じます。