Column: 013

サッカク砂漠

ぐね〜り、びっくり!くらくらワンダーランド

2020.05.22

認知症世界。この世界には、砂地がゆらゆら揺れているように見えて平衡感覚を失ったり、見る人によって色や大きさが変わる巨大サボテンが突然現れて行く手を惑わす砂漠があるのです。歩みを進めれば進めるほど、吸い込まれそうなほど真っ暗で深い谷、進むべき道がわからなくなるほど一面土色の荒野など、想定外の情景が目の前に広がり、冒険心をくすぐられるのです。

街を歩いていると、一瞬なんだか地面がデコボコしているのかな?と思わせるような、幾何学模様のタイル張りの道に出会うことってありませんか?このように、目や耳に異常がないにもかかわらず、実際とは異なる見え方、聞こえ方がしてしまう現象のこと「錯覚」といいます。
同じ長さの線の両端に内向き・外向きの矢印を付けただけで、長さが異なって見える(ミュラー・リヤー1889)も錯覚の一例です。人が知覚する世界はそもそも同じではないのです。

私は最近、見たものの大きさがよくわからなくなる出来事がありました。
ある日、電車に乗っていた時のことです。目的地に着いたので、降りようとしたら、電車とホームの間に隙間がありました。今までは隙間があっても、ちょっと気をつければ降りられたのに、なんだかこの日は、そこに深くて大きな隙間があるかのように感じたのです*1。それなのに、周りの人は皆、平気でスイスイ降りていきます。
もう、怖くて怖くて仕方なかったのですが、扉が閉まってしまうので、えいっと飛び降りました。もう、心臓はばくばくです。

少し歩くと、商店街につきました。しかし、この商店街、歩くたびに歩道の地面がぐねぐねと動いて見えるのです*2。もう、いつつまずくかと怖くて、思わず隣に歩いていた人の腕を掴んでしまいました。立ち止まって、足元を見ると、白と黒のタイルが交互に並んでいただけでした。

この間、ホテルに泊まった時も不思議な出来事がありました。そこは、最近出来たばかりのホテルで、内装は白を基調にしたとっても綺麗なホテルだったのですが、床も白、壁も扉も白、おまけに家具も白っぽいもので揃えられていたのです。すると、私はどこまでが床でどこに壁があるのかわからなくなって*3、何度も壁にぶつかりそうになりました。トイレに入ったときなんて、真っ白な個室に真っ白の便器。ここだと思って座ったら、尻もちをついて転んでしまいました*3。
さらに、エントランスはピカピカの大理石だったのですが、私には一面が水溜りのように感じられて*3、すべって転ばないかとひやひやしました。

そうそう、この時、友人3人で一緒に旅行に行っていたのですが、ふとした瞬間に、右隣にいた友人が見えなくなって、あれ?どこいったの?と思う*4ことがありました。あたりをくるりと見渡して、あれ、すぐ隣にいたのね、とびっくりしました。この時は、なぜか右側のものに気づかず*4、右側にあるものは視界から消えてしまうようでした。

なんとも不思議な私の視界なのですが、電車の乗り降りの時は、ちょっとしたコツをつかみました。
ぴょ〜んっ!という掛け声を心の中で叫んで、その声に合わせて降りるんです。笑
そんなはずない、と思うかもしれませんが、結構効き目があるんですよ。慎重に降りようとすると、あまりにも隙間に集中するためか、どんどんその幅が気になってしまうのですが、こうやってぴょ〜んっ!と降りると、意外にスムーズに体が動くのです。こんな、思いもよらない工夫で、もっといろんな見え方を改善していけるといいなと思っています。

Barrier:

「サッカク砂漠」に直面する背景には、
以下4つの認知症に伴う心身機能の障害が考えられます。

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Knowledge:

認知症のある方ご本人、支援者、家族、その他全ての人のこの課題解決のための知恵や世の中の障壁に関する情報を掲載します。皆さんの知恵の投稿もお待ちしております。

認知症のある方ご本人、支援者、家族、その他全ての人のこの課題解決のための知恵や
世の中の障壁に関する情報を掲載します。皆さんの知恵の投稿もお待ちしております。

  1. 服部優香理・鬼頭史樹・山田真由美さんの知恵

    2020.05.22 投稿

    電車とホームの隙間はぴょ〜んっ!という掛け声を心の中で叫んで、テンポよく降りる

    服部優香理・鬼頭史樹・山田真由美さんの知恵

    2020.05.22 投稿

    動作(体の動かし方)を意識すればするほど体をどう動かしてよいのかわからなくなり、動作が止まり、パニックになるときがあります。そんな時は、「足を動かして」「足を前に出して」「大きく」「右」など、動作を意識する声掛けは避けて、「ぴょーん」「1.2、1・2」「よいしょ」など、体の動きを意識しない言葉かけをすると自然と体が動きだします。
    また、外出の時に、靴を脱ぎはきする場面やトイレに入るときは、自宅の環境に近い場所を選び(手摺の位置など)、日常に近い方法で行えるようにしています。

  2. 樋口直美さんの知恵

    2020.05.22 投稿

    樋口直美さんの知恵

    2020.05.22 投稿

    レビー小体型認知症の方に現れやすい「パーキンソン症状」は、パーキンソン病と同様に体が固まって、歩行が小股でたどたどしくなる身体症状です。足が持ち上がらず、不安定なため、とても転びやすくもなります。でも歩く時に、本人や隣の人が、テンポの良い歌を歌ったり、「いっち、に〜!いっち、に〜!」と掛け声を出したりすると魔法のように足が上がって、歩行が改善するということがあります。


  3. 沼田さんの知恵

    2020.05.22 投稿

    トイレの壁の改修

    沼田さんの知恵

    2020.05.22 投稿

    認知症デイのトイレの床と腰壁の色を濃くして、白い便器が浮かび上がって見えるようにしたら、ほとんどの方が自分でトイレを使えるようになりました。
    視力の落ちた方も便座の位置を見つけやすくなって、直ぐに安心して座れるからか、想定以上の効果が得られたと感じました。改修の際には、視認性の向上に心掛けています。

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