注目される認知症フレンドリーコミュニティ
認知症の人は、日本国内に600万人。最近では、医療介護の現場だけではなく、認知症の人の行方不明、交通事故、詐欺や横領、お店などサービス業における認知症の人とのトラブル・・・認知症のことが毎日のようにニュースになっています。認知症の課題は、特定の専門領域だけで解決できるものではなく、地域ぐるみで解決していく必要があると言われており、「地域包括ケア」、「地域共生社会」などの文脈でも、認知症に焦点が当たることが増えてきました。
そうした中注目されるキーワードが、認知症フレンドリーコミュニティ(DFC)です。英国のアルツハイマー病協会によると、認知症フレンドリーコミュニティーとは、「認知症の人が、高い意欲を持ち、自信を持って、意義のある活動に参加、貢献できると感じられるようなコミュニティ」とされています。
ここで言うフレンドリーとは、認知症の人のやさしくするという意味ではなく、ユーザーフレンドリーという言葉に見られるように、「〜の視点に立った」「〜が使いやすい」といった意味合いです。認知症の人や家族をとりまく困難は、環境との相互作用で起こるものであり、環境面を改善することで、認知症の人が普通の暮らしをする権利を保障していこうという考え方です。
認知症の人が使うことを想定した設計になっているか
ひとつ例を考えてみましょう。ある町の銀行の支店が閉鎖され、ATMコーナーだけが残りました。多くの人にとっては、それほど影響がないことであっても、その町に一人暮らしをしている認知症の高齢者の中には、大きな影響がありました。今まで窓口ではお金を引き出せていたけれど、ATMだと操作が難しく、お金を引き出すことができなくなってしまった人がいました。ATMの仕様は、詐欺の防止などを防ぐための確認操作などもあり、年々仕様が複雑化しています。若い人にとっては、困難を感じない画面操作も、高齢者、とりわけ認知症の人が困難を伴います。結局、その方は、一人暮らしの継続が難しくなり、施設に入居することとなりました。
認知症の課題の多くは、「認知機能が低下すること」と、「周囲の環境のあり方」との間で起こります。ATMの問題も、当然背景に、認知症による症状ということがありますが、この場合、困難を生み出している直接の原因は、お金を引き出す窓口が、人のいる支店の窓口から、複雑な仕様のATMへと変化したことにあります。認知症にまつわり起こっている課題を、医療や介護の対象としてだけ見てしまうと、特には課題の本質を見失うことになります。認知症の人の普通の暮らしを保障していくためには、認知症の人の視点に立って、ATMの仕様が改善される必要があるのです。
DFCを構成する8つの領域
英国アルツハイマー病協会とBSI(British Standards Institution,英国規格協会)がまとめた認知症フレンドリーコミュニティに関するガイドラインによると、下のような8つの領域があるとされています。
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・アート・文化、レジャー・余暇
・企業・商店
・子ども、若者、学生
・コミュニティ、ボランティア、宗教組織
・消防・警察
・健康医療ケア
・住居
・交通
認知症フレンドリーコミュニティについては、現在、世界各国で議論が始まったところで、この8つで網羅できているのか、どのように取り組みを評価するのかは、今後の議論を待たねばなりませんが、少なくとも、医療介護サービスを充実させることだけでは、認知症の人や家族が暮らしやすくなるという訳ではなく、社会や地域を構成する様々な領域が、認知症の人に視点に立って設計しなおす必要がでてきているということではないかと思います。
現在、こうした問題意識に立ち、認知症フレンドリーコミュニティを目指す地域が国内外に生まれつつあります。この連載では、国内外の認知症フレンドリーコミュニティ(DFC)の取り組みを紹介していきます。