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日本の認知症フレンドリーコミュニティ

各地の認知症フレンドリーコミュニティの取り組みを紹介します。

vol. 2

認知症フレンドリー社会の縦糸と横糸

認知症フレンドリー社会を実現するためのアプローチとは

 現在、認知症の人は全国に600万人。多くの人がいずれ認知症と共に生きるステージを経験することになる。認知症の人の視点に立って、社会のデザインを再検討しないといけない・・・こうしたことを前回のエントリでご説明しました。

 総論としては理解できるけれど、認知症の人の視点にたって社会を考えると言っても、漠然としすぎていて、何をどうすればよいのだろうか。そう思った方も少なくないのではないかと思います。今回は、そうした率直な疑問を持つ方を念頭に、認知症フレンドリー社会を実現するためには、実際にどのようなアプローチがあるのかをご説明したいと思います。

 私は、これまで10年以上に渡り、取材やNPOの活動、調査研究などを通じて、国内外で認知症の課題に取り組む人たちと接してきました。医療やケアの専門職、地域のボランティア、企業の中で認知症の課題に関わる人、自治体や公共団体の人たち、NPO、研究者など。認知症というと、医療やケアのように、専門性に基づいて対人支援をする人を思い浮かべることが多いと思いますが、認知症の人をとりまく環境の方を改善しようとまちづくりや仕組みの改善に関わる方もいます。私は、後者の人たちを中心に、国内外で活動する人たちにお話を伺い、関わってきました。そうした経験から、認知症フレンドリー社会を目指すアプローチには大きく分けて、2種類あり、それらが相互に関係していることが分かってきました。

2つのアプローチ

 2種類のアプローチというのは、テーマ型とコミュニティ型です。
 
 テーマ型というのは、例えば、認知症の人が利用しやすい交通機関が必要だというようなケースです。どのような乗り物がよいのか、案内表示をどのような工夫をすればよいのか、道に迷ったり、休憩が必要な乗客がいる場合にはどのようなサービスがあればよいのかなどが課題として出てきます。これらは、かなり具体的な課題ですので、認知症の人や家族に経験を聞き取ったり、企業のサービス設計を担当する人や交通問題の専門家、医療福祉の専門家などが一緒になって解決策を考えていくことになります。1つの企業だけで取り組むことも可能ですが、業界の中でガイドラインなどを作ることも可能です。英国では、20のテーマに分かれて、業界ごとに認知症フレンドリーになるためのガイドラインが作られています。
 
 コミュニティ型というのは、認知症フレンドリーな○○市をつくろうというような言われ方がされるようなケースです。さきほどの例で言えば、認知症の人が暮らしている中で、交通機関ももちろん大事ですが、それだけではなく、買い物や金融機関、地域活動への参加、時には就労など、生活を構成する様々な領域で包括的な取り組みが求められます。

縦糸と横糸の関係

(図)縦糸と横糸(著者作成)

 2つのアプローチは、図のように縦糸と横糸の関係にあります。相互に関係して、折り重なった構造となっているため、どちらか一方のアプローチだけだと、成果が見えてこなかったり、表面的な取り組みにとどまってしまうことが少なくありません。
 
 例えば、ある町で、認知症の人が一人で買い物に出かけようとしてバスを使ったところ、バス停を乗り過ごしてしまった経験があるとします。体も動くし、買い物をしたいという意欲もあるのに、バスという移動方法がボトルネックとなり、社会生活を送ることができない。こうした状況を改善したいと、当事者とその生活を支える専門職が、その町にあるバスの営業所に働きかけたとします。バスに乗る際に、あらかじめ降りるバス停を表示したカードを運転手がみせ、もし乗り過ごしているようであれば、一声かけて欲しいという協力要請をしたとします。バス会社にもよると思いますが、サービスマニュアルに関係することなので、本社で検討することになります。本社では、営業エリア全体で、どの程度そうしたニーズがあるのかもよく分からず、従業員への教育にもコストがかかるため、あまり前向きな返事が得られませんでした。
 
 コミュニティ型のアプローチに関わる人たちは、具体的に生活課題を持った人たちからスタートするので、課題はよく見えていますが、企業や行政サービスの中で、どのようなことが実施可能で、どのようなことが難しいのかなど、解決のリソースに関することがよく分からないこともあります。また、企業の支店や営業所では、サービスマニュアルやシステムなどに関係することを独自に判断することは難しいことです。
 
 一方で、テーマ型で取り組む人たちにも、課題があります。認知症の人の実際の暮らしに関する知識や体験が乏しく何をどうすればよいのか、分からないこと。あるいは、ある企業や業界で取り組みをしたからと言って、すぐに目に見える結果がでないことが多くあります。認知症の人が利用しやすい交通機関を整備したとしても、行きたいと思える場所が同様に認知症の人に使いやすいものでなければ、移動が増えることにはつながりません。業界や業種を超えて、包括的な取り組みをしないと、認知症の人の暮らしや行動が変化するという成果は得られないのです。

認知症フレンドリーコミュニティをつくるとは

 認知症フレンドリーコミュニティをつくるというのは、一見すると、地域に根ざした活動をするということのように思えますが、この縦糸と横糸の構造を考えると、それだけでは不十分なことがわかります。具体的な困りごとを出発点として、この縦糸と横糸を行き来しながら、仕組みの改善にも着手していく必要があります。実際には、テーマ型の活動をする人とコミュニティ型の活動をする人は別々のことが多いので、そうした人たちが出会い、情報や課題意識を共有することも大切になります。

 近年、認知症が社会的課題であることが認識されるようになって、企業の中にも、認知症の課題に取り組みを始めるところが増えています。次回からご紹介する各地の認知症フレンドリーコミュニティでは、こうした縦糸と横糸の関係も踏まえて、具体的な活動内容をご紹介をしていきたいと思います。