スターバックスで認知症カフェ
東京都西部にある人口40万の町田市。2010年代になって、日本を代表する認知症フレンドリーコミュニティのひとつとして国内外に知られるようになってきました。認知症関係の取り組みは、行政が計画を立てて主導するのが一般的ですが、町田では、行政だけでなく、地元企業や地域のNPOなどが積極的に計画段階から関わり、一緒になって活動をしているのが特徴です。中でも注目されているのが、スターバックスで毎月開催されているDカフェです。
DカフェのDは、認知症(Dementia)の頭文字からとっています。市内にある全ての店舗で、一角を使い、それぞれ月1回開催されています。参加者は、認知症の人や家族、支援を仕事とする人や、認知症のことに興味を持った一般の住民など。天気の話題などから始まり、それぞれの暮らしや日頃悩んでいることに移っていきます。一般的には、認知症カフェと呼ばれる活動で、病院や介護施設の会議室などで開催されることが多いのですが、このDカフェは、街中のスターバックスで開催されているのが特徴です。特に初めて参加する人にとっては、行ったことがない病院や介護施設よりも、スターバックスの方が行きやすいという感想が聞かれます。開催日時は、店舗の掲示板にも掲載されているほか、市報や関連のウェブサイトにも載っており、誰でも参加しやすいのが特徴です。Dカフェに参加したことで、認知症と診断を受けた直後の人が、認知症に関わる悩みや体験を共有したり、同じ立場の仲間を見つけたり、地域の人や支援者と知り合いになったという事例も生まれています。
スターバックスとの協力が始まったのは、2015年のことです。認知症の人、とりわけ、診断を受けた直後の人、介護サービスにつながる前の人たちが、診断を受けたけれども、何も支援がなく、地域で孤立してしまうことが全国で問題視されていました。そうした課題を解決するために、町田市とNPOが協力して、認知症カフェを開催することになりました。準備をする中で、介護サービスにつながる前の一般住民にとって、病院や介護施設にいくことは心理的な抵抗があるのではないか。自分たちが行きたくなるような場所で開催が必要でないかという話になりました。そうした中、この話に協力を申し出たのが、地元のスターバックスの店長さんでした。「地域のいろいろな世代の人に使ってもらうことがお店の使命と思っています。地域の高齢者の方にも、気軽に利用してもらいたいと思っていたので、お話を聞いた時、自分たちでできることならぜひ協力したいと思いました」と言います。スターバックスの協力もあり、認知症の当事者が、1年にのべ百人以上が参加し、地域で孤立してしまう可能のある認知症の人が、他の当事者や家族、地域で活動をする支援者らと知り合いになっています。
認知症フレンドリーな地域における企業の役割とは
認知症フレンドリーコミュニティづくりを担う企業は、スターバックスだけではありません。他にも、地元のホンダの販売店では、「地域に役立ちたい」「仕事がしたい」という思いを実現するために、店にある試乗用の車の洗車の仕事を、認知症の人が担っています。町田市にあるデイサービス DAYS BLG!から、認知症の人が働く場を作れないかという相談を受けた自動車販売店が、数年かけて試行錯誤した結果、洗車の活動が生まれました。最初は、車を傷つけてしまうのではないか、などと心配する従業員もいましたが、実際に、自動車を丁寧に洗う姿を見て、懸念は払拭されたと言います。洗車は、有償のボランティアと位置付けられており、毎月、洗車をするメンバーには謝礼が支払われています。
一般的には、認知症のことは、行政が計画を立てて、民間が協力をするという関係にあることが多い中、町田市では、民間企業は、率先して活動をしています。時には、こうした民間の活動がもととなって、行政施策が組み立てられていくこともあります。
認知症フレンドリーコミュニティは、生活をとりまくあらゆる環境を射程にしているため、行政の福祉部門などの一部の担当者が見取り図を描き、残りはそれを粛々と実行していくというプロセスでは実現できません。町田市の行政と民間の関係性は、認知症フレンドリーコミュニティづくりに必要なプロセスだと言えます。