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日本の認知症フレンドリーコミュニティ

各地の認知症フレンドリーコミュニティの取り組みを紹介します。

vol. 7

コロナ禍でも高齢者を孤立させない オンラインサロン つくば市(茨城県)

コロナ禍で孤立する高齢者

 新型コロナウィルスの感染拡大は、社会のあり方に大きく影響を及ぼしています。とりわけ甚大な影響があると言われるのが、高齢者です。背景には、高齢者の重症化リスクが高く、外出や交流の制限が強いこと。また。学校や職場などで対策が講じられつつある若年や働き盛りの世代に比べて、オンライン化による代替や補完が進んでおらず、社会生活そのものが大幅に抑制されてしまっていると言われています。社会的なつながりが希薄になりがちな高齢者が、コロナを理由に、集いの場やサークル活動が中止となるなどして、より一層、家に閉じこもるような事態が各地で起こっています。
 
 以前の記事でご紹介した町田市の認知症カフェ「Dカフェ」も、新型コロナウィルスの感染拡大に伴い、店舗での開催は中止となっています。(2020年10月現在)これまでであれば、こうした場を介して、同じような経験をする当事者と出会ったり、地域で支援をする人たちと知り合うことができましたが、こうした場がなくなることで、地域や社会との接点を見出すことができず、社会的に孤立する人が出てきてしまうのです。8月に入り、オンラインによるDカフェを開催していて、そこに参加できる状況にはなっていますが、オンライン会議の仕組みに参加できる高齢者はまだ多くはなく、新規での参加者はなかなかいないのが現状です。
 

つくば市のUDワークの挑戦

 そうした中、こうした現状を変えようと動き出した団体があります。つくば市の市民活動団体「UDワーク」は、今年5月から地域の高齢者向けに、LINEやZOOMを使ったオンライン交流の支援を始めました。クラウドファンディングを通じて、資金を集め、タブレット端末を購入。アプリなどを事前に設定し、すぐに使える状態で、高齢者に使ってもらえるようにしました。高齢者がつまづきやすいところをサポートする専用サイトやテキストを作成して講座を開催しています。高齢者向けのサロンや趣味サークルを主催する人向けには、オンラインでサロン活動ができるための講座を開催。主催者と参加者ともに、オンラインで交流ができることを支援しています。UDワークの試みは、サロン活動をリアルに開催できない全国の他の地域からも関心が集まり、クラウドファンディングには、1ヶ月で目標を上回る125人から120万円余りが集まりました(参照:READY FOR webページ「外出できないみんなを元気に!シニア支援型オンラインサロン開設」)。
 

タブレットはあからじめアプリの設定がされています
 

オンラインの会の主催者側の支援もしています
 

オンラインサロンのテキスト
 

 UDワークを主催する作業療法士の前田亮一さんは、高齢者、とりわけ認知症の人や障害がある人たちが、気軽に地域に出て行き、交流できる環境を作りたいと、10年前から地域で活動を続けてきました。移動のことも気にせず、いつでも交流できるオンラインツールは、高齢者にとっても重要で、リアルな集まりに加えて、こうしたものを使ってもらえればいいのではないかと、かねてから高齢者の人たちに薦めてきました。しかしコロナ禍以前は、「難しくて分からない」「使ったことがないので、無理」と断られることが多かったと言います。ところが、今年4月になると、これまで地域の各所で開かれていた、サロンや集いが中止となると、これまで行っていた場所に行けない、友人たちと会うこともできないと、高齢者の間にも危機感が高まりました。このままでは、社会的に孤立する高齢者がますます増えるのではないか、前田さんたちも、同様に危機感を持ちました。なんとか、交流を続けられるようにしたいという想いから、オンライン交流を支援する活動を始めました。これまでに、のべ250人ほど(9月まで)が参加し、オンライン交流を体験することができました。
 

オンラインツールが世界を広げてくれる

左:田中さん 右:UDワーク代表の前田さん
 

 つくば市で一人暮らしをする田中さん(仮名・80代)も、このオンライン交流に参加したひとりです。これまでパソコンやタブレットなどは使ったことはありませんでしたが、前田さんたちのサポートを受け、現在は、ZOOMやLINEなどを使って、地域の人や遠くに住む子供、孫たちとの交流を毎日楽しんでいます。
 
 「難しいことは全然分からないんですけど、かかってきたらボタンを押して出るという感じでなんとか使っています。電話よりも、相手の顔が見えるので、きちんと会話をしている感じがあります。」
 
 4月以降、地域のサロン活動なども中止となり、家を出ない日々が続いていました。前田さんたちが、タブレットを持ってきた時には、一体何だろう、想像がつかない思いだったと言います。実際に使ってみると、設定や用語は分からないものの、使うこと自体はできることが分かったと言います。
 
 「友人や地域の人と話すと、今まで知らなかったことを知ることができます。人と話すことで、世界が広がったと感じられますね」
 
 オンラインツールは、田中さんの暮らしの一部になりつつあります。
 

オンライン交流普及の課題

 実際にオンラインでの交流に参加した人からは、これからも使って行きたいという声が聞こえる一方で、まだ大きな課題があると前田さんは言います。
 
 「機材や設定はこちらでサポートすることでなんとかなるけれど、自宅に通信環境がないという人も多いのが現状です。残念ながら、通信環境がない方は参加できません。社会インフラとして行政のサポートも必要だと思います。神奈川県では、リモート認知症カフェなどに参加する人向けにタブレットの無償貸与が始まっていますし、公共施設などで通信環境が整うことも重要だと思います。」
 
 前田さんたちは、高齢者がリテラシーを高めていくほか、イベント発信者も少しずつ慣れていき、使う頻度を高めていくことが広がりに対しては大切だと考えています。
 
 「小さな単位でも活動発信者・参加者が持続的な活動を行えるようにし、輪を広げていくことが大切です。そのためにオンライン化をお手伝いする専門のサポートチームとして我々は活動していきたいと思います。」
 
 つくば市では、9月頃から徐々に、リアルな場でのサロン活動や交流も再開されつつあり、実際に顔を合わせた交流を喜ぶ声も増えてきました。一方で、感染の再拡大の可能性もあり、再びリアルな交流が難しくなることも予想されます。前田さんたちは、コロナをきっかけとして、リアルもオンラインも、状況に応じてどちらも使いこなせるように支援をしていきたいと考えています。
 
 「オンラインを行うことで、コロナ前より人と交流する機会が増え、生活が広がった方もいます。使い方次第で生活を大きく広げてくれる可能性を秘めています。今後は、I C Tを活用して自分の得意なことを発信し、多くの方と交流の機会を持ちながら、住み慣れた地域の中での豊かな暮らしに向けた活動やサービス提供を続けていきます。」
 
 これまで中心だったリアルな場での交流に加えて、オンラインという交流も選択肢に持ちながら、高齢者と地域をつなげる活動が続いて行きます。
 

【参考】
・オンラインサロン支援サイト「イベントキャンバス」
 
・前田さんが主催するカフェロマンつくば
※10月現在、月2回のリアルな活動と月2回程度のオンラインおしゃべり会を開催
(参照:認知症フレンドリーコミュニティ100dfc webページ