Column: 09

パレイドリアの森

あなたにしか見えない世界を楽しめ!

2019.12.27

認知症世界。この世界には見えるはずのないものがいろいろと見える森があるのです。この森に足を踏み入れると、目の前に突然、人間の顔・姿をした木が現れたり、聞こえるはずのない音が聞こえてきたりと不思議な体験をするのです。

幼い頃、壁の木目が人の顔に見えて、怖くてトイレに行けなかった、なんていう経験のある方、結構いるのではないでしょうか。月には餅つきするうさぎが見えますし、雲の形が動物の形に見えるねなんていう話もしましたよね。このようにあいまいな物の中に人の顔や動物が見えてしまう現象を「パレイドリア」といいます。

しかし最近、何かに見えるでは説明のつかない、不思議な体験をしました。
友人とハイキングに出かけた時のこと、森の中に何匹もの子犬がいるのです*1。どうしてこんな所にこんなに子犬がいるのだろうと思いながら歩いて行くと、今度は、向こうの木から何匹もの蛇が垂れ下がっていたり、とっても綺麗な鳥が木々の間を飛んでいました*1。「なんだか不思議な森ね」と友人に言うと「え?どこが?」と変な顔をされてしまいました。

気をとりなおして、少し息の上がる山道を歩いていると、今度は見たこともない虫が飛んできて*1、私の目の前に止まったのです。その虫は長い触角を持ったつやつやした黒い虫で、カブトムシくらいの大きさです。
こんな虫は見たことがありません。まさか新種の虫発見か!?と、私は一瞬気持ちが高揚したのですが、その瞬間にぱっと消えてしまいました。

その後、日常生活の中でも虫や猫を見かけること*1があったのですが、そんなものはいないと家族が怒って言うので、喧嘩になってしまいました。じゃあ、今、目の前でじゃれているこの猫は、いったい何だというのでしょう?

またある時には、駐車場に停めた車が動いて見えて*2、急いでサイドブレーキを引きに戻った事がありました。でもドアを開けて握ったサイドブレーキはしっかり引かれていたのです。
一緒にいた友人に、「どうしたの?」と怪訝そうに見られたのですが、「ちょっと心配になって」とその場はなんとか誤魔化して、ランチに向かいました。そのお店は、初めてだったのですが、壁の模様がどうしても人の顔に見えて*3、どうにも落ち着きませんでした。ずっと気になってしまって、会話に集中できず、どっと疲れてしまいました。

その日は早めに休もうと、寝室の扉を開けるとなんと、見知らぬ男の人が私のベッドで寝ていた*4のです…!思わず悲鳴をあげてしまいましたが、次の瞬間、それは寝起きのまま丸まった布団の塊に変わりました。でも、その時は確かに男の人の着ている服まではっきりと見えたのです。
私の悲鳴を聞いて駆け付けた家族には大笑いされましたが、こればっかりはもうごめんです。

それ以来、街を歩いていても、あの猫は本物かな?あそこに人がいるんだけど…、といろんなものに気を取られてしまい、すっかり疲れてしまいました。
でも、気にしたところで見えるものは見えるので、もうバカバカしくなって気にすることを止めました。

そんな私は、最近、私にしか見えていないものがあるのだと理解し、突然見えたものはなるべく口に出さないように気をつけています。とっさに口に出してしまうと、この人おかしいんじゃないかという目を向けられてしまいます。人の目だけは気になるのですが、私の中では、見えることにも段々慣れてきて、怖さはずいぶんなくなったんです。
でも、本当は何が見えようと、周りの人が「へ〜、そうなんだ〜。何が見えるの?」と、普通のこととして、自然に受け止めてくれるようになったら、私も楽に生きられるようになるのになと思います。

※レビー小体型認知症の幻視と錯視
何もないところにありありと現実のものとして人、動物、虫などが見える幻視は、レビー小体型認知症に特有の症状といわれます。レビー小体型認知症の幻視は、認知症症状の目立たない初期から3〜4割の人に現れますが、最期まで現れない人も1〜3割います。見ながら様子を説明したり、見たものを記憶していて後で説明できたりもします。人が本当に居るかのように振る舞うのは、異常な行動ではなく、正常な反応です。
なお、レビー小体型認知症でなくても、薬の副作用などで「せん妄」(一時的な脳機能の低下)を起こした時に幻視が現れることがありますが、せん妄を起こしている時の記憶はないといわれます。錯視(電気コードがリアルな蛇に見えるなど、実際にあるものが違うものに見える。)もレビー小体型認知症で起こりやすい現象です。

Barrier:

「パレイドリアの森」に直面する背景には、
以下4つの認知症に伴う心身機能の障害が考えられます。

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Knowledge:

認知症のある方ご本人、支援者、家族、その他全ての人のこの課題解決のための知恵や世の中の障壁に関する情報を掲載します。皆さんの知恵の投稿もお待ちしております。

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世の中の障壁に関する情報を掲載します。皆さんの知恵の投稿もお待ちしております。

  1. 当事者さんの知恵

    2019.12.27 投稿

    変なものが見えた時には、幻視を疑い、すぐに人には言わない

    当事者さんの知恵

    2019.12.27 投稿

    幻視や錯視をたんなる症状だと理解して、変なものが見えた時には、幻視ではないかと疑い、すぐに人には言わないようにしています。

  2. 樋口直美さんの知恵

    2019.12.28 投稿

    樋口直美さんの知恵

    2019.12.28 投稿

    幻視・錯視という症状は、過度に異常視されますが、ただ見えるだけで、人格とも理性とも無関係です。そう理解すれば、本人も家族も慣れて平気になりますし、上手くいっている家族は一緒に幻視を楽しんでいます。抗精神病薬で無理に消そうとすれば、副作用のリスクの方が大きいですし、防ぎようのないものです。私にも今も現れますが、気にしていません。
    怖い内容の幻視に悩まされてきた方が、その幻視を仲間に話して徐々に気持ちが落ち着き、安心感を持つと幻視の内容も穏やかなものに変わったと読みました。私もストレスが強い時は、怖い幻視が現れます。
    近視・乱視・遠視があるように幻視もある。そう思っていれば、なにも怖くありませんし、世の中の人が全員そう思うようになったら、幻視は、障害でも問題でもなくなると考えています。

  3. しのさんの知恵

    2019.12.29 投稿

    絵本にして欲しい

    しのさんの知恵

    2019.12.29 投稿

    パレイドリアの森 というタイトルで、絵本にして欲しいです。
    認知症のヴァーチャルリアリティ体験をしたときに、
    ああ、こういうことなんだ、と認識を新たにしました。
    ヴァーチャルリアリティ体験は、今のところ限られた人しか体験のチャンスがありません。
    でも、絵本ならば、子供から大人まで手軽に親しむことができます。
    今回のイラスト、とても楽しい気持ちになりました。
    いろいろなシーンを、イラストで表現したらいいと思いました。
    ミッケ! のような違いを探す仕掛け絵本もいいかもしれません。
    北海道の 浦河べてるの家 のように、
    幻聴や幻覚、妄想を、幻聴さん等と呼び、
    当事者が感じることをオープンにしています。
    当事者の発表する大型紙芝居は、ものすごく楽しいものでした。
    共感を呼ぶものです。
    パレイドリア についても、共感が広がることを願います。
    絵本になったから、絶対に買います。

    もし、すでに世に出ているようでしたら、教えて下さい。
    買います。m(_ _)m

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