Column: 14

創作ダイニング・やばゐ亭

言葉は通じなくても味わい深い世界

2020.06.25

認知症世界。この世界には、私たちが普段使っている言葉が、言葉としてうまく使えなくなってしまう、それは不思議なレストラン「創作ダイニング・やばゐ亭」があります。ここでは、みんな、「あれ!」「それ!」と注文するため、料理の名前はありません。そして、出てくる料理は、和食とも、中華とも、フレンチとも言い難い何とも表現できないもの。この店の料理にはジャンルという考え方がないのです。そして、この店で味を表す言葉は「やばゐ!」の一言。ここでは「やばゐ!」以外のどんな言葉も伝わりません。でも間違いなく、この島で最高においしい料理を堪能できる店なのです。

私たちは、日本語という共通の言葉を使って、普段、当たり前のように人とコミュニケーションをしています。でも言葉の意味もニュアンスも、全員がまったく同じということはなく、だからこそ誤解は常に起こります。まして住む場所や国が違えばなおさら。汽車は中国では自動車のことを指すのです。言葉とは、私たちが思っている以上に曖昧で伝わりにくいものなのです。

私は最近、今まで普通に使ってきた言葉の意味がわからなくなる出来事をよく経験するようになりました。
ある日、10年以上使ってきた炊飯器が壊れてしまい、買い替えました。私はちょっぴり機械音痴なところがあるので、一番使い方がシンプルなものを選びました。
家に帰り、早速夕飯の準備のため、お米を研ぎ、炊飯器にセットしたその時です。炊飯器の3つあるボタンのうち、どれを押せばいいのかわからなくなってしまったのです。 “炊飯”と書かれたボタンが確かにあるのですが、どうも、「炊飯=ごはんを炊くこと」とうまく頭の中で結びつかないのです*1。以前の使い慣れた炊飯器の時は、手が押す場所を覚えていて、無意識に押していたようです。

また、ある時は、種類別に分けて収納している衣装ケースから、パンツを見つけられずに困ってしまいました。その衣装ケースには「下着」と書いたラベルを貼ってあったのですが、パンツが「下着」の一つであることがピンと来ず*1、その衣装ケースに入っているとはどうしても思えなかったのです。

こんな風に、言葉と具体的なイメージが結びつかない出来事は他にも色々あります。
学生時代の友人から同窓会のお誘いメールが届きました。「新橋駅で待ち合わせね!」と書いてありましたが、新橋…ってどんなところだったけ?行ったことがあるはずなのに私の中では、何のイメージも思い出も浮かんできません*2。
何ひとつ思い出せないまま新橋に着くと、そこは、以前、何度も来た見慣れた場所でした。実はこんな出来事が時々あるのですが、まあ、初めての場所にいくワクワク感を何度も味わえて楽しいかな!と思っています。 笑
この日は、友人と大いに昔話に花を咲かせたのですが、何度か話の最中で「最近『あそこに』行ったんだけど…」「大学時代によく食べた『あれ』を、注文したいな。」となんだか、あれ、こればかりで言いたい言葉が、なぜか頭に浮かばない*3のです。 

それに、友人の仕事の話を聞いていても、なぜか話がバラバラに感じてうまくつながらず、必死に理解しようとしても話の内容がよくわかりません*4。
私も話したいことは頭には浮かぶのだけれど、話そうとするとなぜか文章にならずに単語しか出てこなくて*5、曖昧な返事を重ねていました。しまいには友人が「酔いが回っちゃった?」と言って笑ったので、「そうかも〜」と誤魔化したのですが…。自分の頭の中には確かに話したいことがあるのに、それを口に出せない、なんとももどかしい感覚でした。
そうそう、漢字が今まで通りに読めないことが最近よくあります。仏(ほとけ)という文字を見て、カタカナの「イ」と「ム」に見えてしまい*6、「イム」って何だろう?と考え込んでしまったり、「伊藤(いとう)」という名字を見て、なぜか「いふじ」と読んでしまい*6、「随分珍しい苗字だなー」と思ってしまったり。

しばらくすると正しい読み方に気づいて、なんであの時そんな読み方をしたのだろうと自分でもびっくりします。

そんな風に言葉のイメージがうまくできなくなった私は最近、何かを片付けたりする時には、中身の単語だけでなくそのイラストも一緒につけてラベルを貼ったり、パッとイメージしやすい名前をつけるようにしています。
例えば、服の収納には、夏物が入っているところにTシャツのイラストのステッカーを貼り、下着が入っているところにはパンツのイラストのステッカーを貼っています。ごみ箱は、燃えるゴミ・不燃物・ビン・缶・ペットボトルなどと書いてあるところに、燃えているマークをつけたり、ボトルの写真を貼っています。それで全て解決するわけではないのですが、ヒントが増えて、理解しやすくなっている気がします。ちょっとした工夫で、わかりやすくなることが実感できると、よ〜し次はどんな工夫で困りごとを解決できるかなと考えて、わくわくすることが増えてきました。

Barrier:

「創作ダイニング・やばゐ亭」に直面する背景には、
以下6つの認知症に伴う心身機能の障害が考えられます。

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Knowledge:

認知症のある方ご本人、支援者、家族、その他全ての人のこの課題解決のための知恵や世の中の障壁に関する情報を掲載します。皆さんの知恵の投稿もお待ちしております。

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  1. 共創ハブ研究員の知恵

    2020.06.25 投稿

    中身のイラストとパッとイメージしやすい名前のついたラベルを貼る

    共創ハブ研究員の知恵

    2020.06.25 投稿

    服の収納には、このようにイラスト付きのラベルを貼ってケースにしまうようにします。文字とともにイラストが書いてあるので、言葉だけでわからないものはイラストを見て、出したりしまったりできていると思います。

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