脳を旅する展

認知症世界に触れるデザインミュージアム

認知症の理解につながる、知られざる脳のはたらきをあなた自身の脳を旅して体感してみてください。さあ、一緒に脳の旅へ出発しましょう。

vol. 02

伸びる腕

写真:木奥恵三(Keizo Kioku)
作品:『伸びる腕』ユーフラテス(2008)

台の横にある穴に手を入れると、上から腕が映し出されます。初めは、あなたの見慣れた腕だったのに、途中からまるでゴム人間になったかのようにみるみる腕が伸び、到底手が届かないはずの距離にある牛乳パックに触れたような感覚が指先に感じられます。
実はこの時、展示台の下には腕が届く場所に触らせるための牛乳パックが置いてあり、伸びた腕と同じタイミングで確かに触れているという触覚が手には伝わっています。自分が知っている自分の腕がありえないほど伸びているのに、触覚は確かに感じられる。視覚と触覚の両方の感覚の差で違和感を感じるのです。途中からは、いま自分が見ているのは本物の手ではなく映像なのだとわかっていて、かつ頭では、触れられるはずがない距離だとわかっていても、あたかも自分の手が伸びて触れているような不思議な感覚になっていきます。

【制作者】
ユーフラテス

【制作年】
2008年
*この作品は、ICCキッズ・プログラム2008「君の身体を変換してみよ展」(佐藤雅彦研究室+桐山孝司研究室 東京藝術大学大学院 映像研究科)にて展示された作品です。この展示は、人間にそなわっている生得的な感覚や志向性をテーマに、現代のテクノロジーを使って身体感覚の新しい統合やズレを引き出す実験装置ともいえる作品を紹介。 作品を通じた体験によって、わたしたちが感覚情報をどのように受け止めているのかを考え、同時に、認知心理学や行動分析学など、人間の「心」や「脳」のはたらきを知るための知見を応用した、新しい表現を展望しようとするものです。(引用元:ICCウェブサイト

【あなたの脳を覗いてみよう】

この作品では、自分の脳の中にある身体地図を認識することができます。
私たちの脳にある「身体地図」とは、自分の手足はどのくらいの長さなのか、どこで手足が曲がるのか、どうやって動かすことができるのかなどを把握しているものです。目の前に牛乳パックがあった時、この距離だと自分の手が届かないなとか、右横にあれば、横に手を伸ばしたり、自分の右手は右向きには曲がらないから体の向きを変えたり。そんな判断は、すべて脳の中の身体地図をもとされているのです。

認知症のある方は、この身体地図が描けなくなったり、曖昧になったりすることで、自分の自分の手足の位置や動かし方がわからないという障害を抱えるため、服の袖にうまく自分の腕を通すことが難しかったり、靴やスリッパがうまく履けなあったりするという困りごとが起こっています。

関連する心身機能障害

31

自分の身体の位置や動きを適切に認識できない・動かせない

29

対象物との距離を正確に把握できない

この認知の仕組みと認知症の関係を詳しく知るには