私の住むマンションから勤務先のオフィスまでは、地下鉄で40分ほどかかります。朝は7時に起きて、身支度と朝食、一緒に暮らす2羽のインコの世話、お弁当の準備をすませ、8時すぎに、少し余裕をもって出勤します。
頻繁に残業もあり、帰宅するとグッタリ。それでも翌日のためになんとか気持ちを立て直して台所に立ち、自分でつくった晩ご飯を食べ、入浴を済ませて、できるだけ早くベッドに入ります。体にいいものを食べること、良質な睡眠をとることへのこだわりは、自分が認知症であると分かってから、以前にも増して強くなりました。
さて今回は、仕事の話です。私の勤務先は、都内にある約千五百ヵ所の事業所と関連があり、定期的に大量の報告書等が主に郵便で送られてきます。私たちは、これらの書類を点検し、変更や新規の届けがあれば、それを所定のデータベースに記録します。書類に不備や疑問点があれば、各事業所に電話やメールで問い合わせ、場合によっては再提出をお願いします。そしてまた、新たに加わった変更点などをデータベースに記録します。
超繁忙期に初出勤して見たものは
転職して働き始めた2021年4月は、この膨大なペーパーワークの最盛期でした。初出勤すると、事前に文書で指定された集合場所には、時間になっても迎えの人影はありません。待ちきれず、私はそこから部署に携帯で電話をかけて迎えをお願いしました。いったいどうなっているのと思いながら職場にたどり着くと、うず高く積まれた書類の山。圧倒されながら、「新人が来たって、かまっている余裕がない」という雰囲気を感じ取りました。その後も、ざっくりしたオリエンテーションを受けたくらいで、新人研修もありません。なし崩しに見様見真似で仕事に取り掛かりました。
まず、未記入の申告書を手に入れました。かつて勤めていた銀行での経験を活かし、自分なりに独自の記入見本をつくってみようと考えたのです。各事業所が申請書類をつくる際にダウンロードする入力フォームを印刷し、各欄に、私がチェックするべきことを、あくまでも自分が見て分かりやすいように、書き込んでいきました。自家製マニュアルとでも言いましょうか。事業者向けの記載例は既につくられていますが、それだと私には読みづらく、チェックするうえで必要な情報を見極めるだけで時間がかかってしまいます。
私専用のマニュアルなら、ペンの色や付箋の色を使い分けて見やすくアレンジできます。資料や文献を参照・点検する必要がある場合は、「どの冊子のどのページを見ればわかる」といったことも一緒に書きこむことができます。
なんでも検索、こっそり検索
新しい職場に移れば、誰でも覚えることがたくさんありますよね。「電話を取って」と指示されても、最初はその職場の電話機の保留や転送の方法が分からないし、他部署に通話を転送するときの番号表 もどこにあるか知らない。以前は、一度教えられればすんなり頭に入りましたが、覚えるのが苦手になった今は、ノートに書きとっても後でどこに書いたかを探すのに手間取ります。それで、Microsoftの表計算ソフト「Excel」に、私専用の仕事データベースをつくるようになりました。Excelはこれまでのキャリアで使い慣れていますし、この職場のパソコンにも入っています。ポイントは「検索できること」です。
私はどちらかというとアナログ派で、すごくパソコンに詳しいわけではありません。でも、とにかく重要な情報をどんどん1つのExcelファイルに記録していけば、なんでも横断的に検索可能な状態をつくり出せます。職場の共有フォルダを一つひとつ開けて探したり、業務ポータルサイトを行ったり来たりしなくてすみます。紙で配られた職場の座席表も、フリガナをふって部署の略称も付け足したうえで私のExcelデータベースに記入しておけば、同僚の顔と名前が一致せず「この方、お名前なんだったかな?」となっても、こっそり検索できます。
事業所から受けた問い合わせの内容や、そのとき参照した資料、ネット検索で確認した情報とそのURL、こちらからの回答内容も記録します。似たような問い合わせが来たら、ファイル内検索をすればササっと作業を進められます。
他の人なら書き残す必要のない作業も、私はマニュアルをつくります。例えば、部署に郵便物が届いたら、どの席に移動して所定の収受印を押し、■■さん宛ての郵便物は開封して中身を確認する、でも、○○さん宛のものは開封せずに机に置いておく……といったこと。
職場の年間スケジュールも記録しておくのは、来年の仕事をスムーズにするためです。この時期は、こういう仕事があるから繁忙期、この時期はちょっと余裕があるから有休をとりやすい――そういう情報も私の記憶には残りづらくなっているので、代わりにExcelに覚えてもらいます。
フル回転で働いているイメージを持たれるかもしれませんが、私としては、かなりセーブしています。認知症になって痛感しているのが、集中力が長く持たないことです。意識的に、認知機能への負荷をできるだけ軽減したい、そして帰宅するための体力も温存しておきたいという狙いもあり、とにかくITに頼れることはITにまかせようと、割り切っています。次回は、スマートフォンのメモ機能について、お話しします。