働く千絵さんの低空飛行

都内に暮らす千絵さんは55歳。2020年秋に軽度認知障害(MCI)と診断された後、あるオフィスに就職します。同僚は千絵さんのMCIを知りません。さあ、離陸です。「あれ、何階に行けばいい?」「あの人は誰?」。次々と航路に現れる「障害物」。果たして千絵さん号のフライトは…

vol. 4

冷蔵庫に牛乳4本!身に覚えなし

今回は、買い物と料理のお話です。みなさんは、買いものでご苦労されていませんか? 私の場合は、「買ってきた牛乳をしまおうと冷蔵庫を開けたら、全部で牛乳パックが4本あった!一人暮らしなのに!!」という経験があります。カレーをつくるのに水ではなく牛乳を使うと、けっこう美味しいカレーができるんです。そんな風にできるだけ多くの料理に牛乳を使うことにして、なんとか使い切りましたが、まあ大変でした。ですから、「買い物の失敗防止はまず、冷蔵庫の整理から」と肝に銘じています。
 
とにかく分かりやすいようにブロックに分けて、どこに何をしまうかルールを決めておきます。そうでないと、調子が悪い時は全体がのっぺりした感じに見えるので、扉を開けたときにチェックすべき部分に素早く注意を向けられません。飲みかけの牛乳は今、ドア棚が定位置となっています。買い置きの飲み物は上の段に寝かせて入れています。野菜室は2段式なので、使いかけの野菜は上段に、大きいものや日持ちする野菜は下段にいれます。調味料など細々したものはケースにまとめてあります。見えづらい棚も、何を置くかのルールを決めています。
 
たとえば、牛乳を使い切ったので買おうと思ったら、まず何度も冷蔵庫の中を点検して、間違いなくストックがないことを確認。それからスマートフォンのメモに作ってある「買うものリスト」に書き足します。いざ、買い物に出かけるときは、スマホのリストを小さなメモ帳に書き写します。書き写したら、スマホのメモは削除します。メモ帳はスマホの半分くらいのサイズが大活躍しています。手のひらサイズだからお店で取り出して見やすいし、スマートフォンのように、時間がたつと画面に自動ロックがかかることもありません。買う物しか書いていないので落としても安心です。
 
 

「本を見ながら料理」は、なぜ難しいか

料理も、このサイズのメモを愛用しています。名付けて3ステップ大作戦。これから作るぞ!というレシピを、このメモに収まる範囲で3ステップに分解して、1ステップごとに1枚、計3枚のメモをつくってから調理を始めます。1枚分の作業を終えたら、そのメモは捨てます。
 
レシピ帳や本などを見ながら作ればいいじゃない?と思われるかもしれませんが、作業をしているうちに、その先の工程を忘れてしまうのです。で、またレシピを見返したときに、適切な場所に戻ることが難しい。「今どこだっけ?」と迷子になり、悲しいかな、また冒頭から見返して…という繰り返しなってしまいます。いまのところ3工程までなら記憶に残りやすいので、料理だけでなく、仕事にも同じ考え方を応用しています。また状況が変わったらアレンジしていくつもりです。
 
 もともと料理が苦にならないタイプで、1か月間、毎日違う献立をつくるのが当たり前でした。それが今のように、買い物は大変だし、調理に時間も手間がかかって疲れるし……となり、一時期は自炊をやめて、買ってきたお惣菜やお菓子など、手っ取り早く食べられるものに頼っていました。だけど、それは体に良くないのはもちろんのこと、生活に面白みがないなと考え直しました。食生活を整えれば、他のこともよくなっていけるような気がしたのです。
 
まずは欲張らずに2種類くらい食材を買い、それを使って作れるレシピから料理を再開。少しずつレパートリーがまた増えはじめ、季節の食材も取り入れられるようになりました。ただ、作りおきをしても食べ忘れてしってもったいないので、食べきれる分だけを作り、残った分はお弁当に活用しています。
 
ここ最近の楽しみは、ぬか漬けです。1年半ほど前の体調が悪かったころにも挑戦したのですが、そのときは挫折。今回は再挑戦です。お気に入りはニンジンですが、リンゴやスルメを入れると、香りが変わってとても面白い。私の経験では、嗅覚は五感の中でも高度で繊細な感覚のようです。こうして食材や植物などの香りを楽しめるということから暮らし改善を実感でき、うれしくなります。