とある方のライフヒストリー

フィールドワークで出会った方々の、豊かな語りをなるべくそのままに。話し手も聞き手もその時出会ったからこそ、そこで話された物語を、ライフヒストリーの形で掲載します。

vol. 11

母なるもの(3)

月子さん、日出代さん

   
——— 話、変わってしまうんですけど、ここに来られてからも、スタッフや他の方のお手伝いをされているとおっしゃってましたけど。何かきっかけがあったんですか?
日出代   別にじっとしててもあれだから、自分のために動いたほうがいいと思ってね。私はこうやって動いてんのよね。私、別に頼まれて動いてるわけじゃないし、困ったのを見るとぱっとなんか動いちゃう。
月子    あんた、だって、いろいろとね。ヘルパーさんになったらって言うくらい、私が。
日出代   なんかじっとしてるより、やってあげちゃったほうが。見て、あーなんて思ってるより、やってさしあげたほうがいいから。動けなくなったらもうしょうがないですよ。だから動ける間だけ。それ、回り回ってそうなるんです。また私もそうなればお世話になるんですからね。そんときはお世話になりますって素直に受けてあれします。
   
——— 町内会やPTA、子ども会はされてました?
日出代   やってましたね。でもこちらに来てから子ども会、私、やらない。古い方が皆さん、いらして、子どももまた少なかったのかな。で、うちももう子どもも大きくなったから。マンション中のお子さんいるお母さまがやってらっしゃいましたね、マンションの中で、代表で。
   
——— じゃあ、お仕事は。
日出代   してなかったですね。
   
——— されてない。ご結婚前にはお勤めされてたんですか。
日出代   結婚して? 結婚前はうちに。(日出代さんを見る)
月子    結婚前は知らないよ。
日出代   ちょっと勤めました。2年弱ぐらい。1年8カ月、そう、2年弱。
   
——— その後はずっと専業主婦でいらした。
日出代   そうですね。事務所の出勤簿等、ちょっと簡単な。手伝ってって言われて2年ぐらい、8時から1時頃まで。電話当番みたいな。事務ですけどね。で、終わりました。うちをまず私、大事にしたくて。あんまりうちのこと、何をやってたからできないっていうの嫌でしょう。朝早く起きて、全部やって出掛けて、帰ってきてまたそれをちゃんとやる、それをやるのはやっぱり限度があるし、子ども、学校から帰ってきたらなるべくいてあげたいと思うし。
   

   
お友達連れてくるから、うちの息子たち。もう帰ってくるとすごいもんよ。お友達来ると玄関ざらざら。上がってくるでしょう、靴の中にざらざら砂が入ってる、あれで上がられるんでね。それで奥ずっと、廊下で階段上ってくる、で、あの子の部屋までまた階段、ずっとざらざら。「あなた、全部お掃除しなさい」つってね。でも皆さん、砂でしょう。学校であれするから、靴の中見るとざらざらなの、みんな。でもしょうがないから、「あなた、階段からずっとお掃除しなさい」ってました。何にもざらざら。
でも、よく遊びに来てましたね。もう息子の部屋で遊ばして。また一番奥の部屋だったもんで、廊下行って階段行って、また奥の部屋でね。でもそれも思い出でしょうね。で、ある程度おっきくなってから、うちでマージャン? 夜なんかマージャンさしてあげてね。外行ってあれするよりって、おにぎり作ってあげたりしてね。やってました。
   
月子    あんまりぼんやりしてる暇なかったね。
日出代   それでうち、小姑が大勢いたから、主人の。だから気が休まるっていうときはなかったです。そっちも行かなくちゃいけないし、なんか作って持っていったり、お昼、持っていって一緒にいただきましょう、それか夜に行って夕飯の支度して帰ってきて、そんなことやってましたから、なんかすごく忙しかったですよ。
自分の時間って、だからお稽古事、お花なんかしてて、先生、こちら来て続けられたらって言ったけど、そんな時間なくて、お花やれば花瓶が分かれば大体、生けられるもんだと思って、そういうのやらなかったです。お茶なんてやってたって、全然お茶もやるあれもないし、だからお花さえ生けられれば、ちょんってできればもうそれでいいと思って、それでここまで来ちゃったし、なんの悔いもないです。取りあえず健康できたから。
   
月子    ここ来て初めてぼんやりするように。
日出代   いいじゃないですか、ね。ここでのんびりできる分、幸せですよね。本当にいい方なの、もう本当に。
月子    結構なんやかんや、やってましたよ、私も。
日出代   いい方なの。
月子    洋裁したり和裁したり。それかお菓子焼いたりパン焼いたり。
日出代   私もプリンは作ってたわよ。プリン1,000個くらいやってたの、1年に。
   
月子    そんなに、面白いね。
日出代   どっかに行くっていうとプリン作ってね。プリン食べたいって言うからね。すると結構、半日かかっちゃうんですよね。キャラメルソースからね。それで、あと余熱取って冷蔵庫へ全部入れて。
月子    お友達言うのね、あれ食べたいって。
日出代   って言われるね。そう、それを作らないと。
月子    だから作っていかなきゃなんないの。
日出代   それから、おはぎは毎年、春と秋、200ずつくらい作って皆さんに配って。だから、去年ここ入ったでしょう、去年からもう皆さんの所、お配りできないから、一昨年の秋で最後ですよっつって、ずっと差し上げてた。お向かい、お医者さんだったの。ずっと差し上げて、お世話になりましたって。
月子    やっぱし売ってるものより喜ばれるね。
日出代   喜ばれる。
月子    私はよく内科の先生の所、行くのにニンジンのケーキを作っていくんですよ。
日出代   甘くておいしいですね。
月子    ニンジンすりおろして、バターじゃなくてサラダ油使って。
日出代   サラダ油。
月子    それで作って。そしたらこの間、私もホーム入りますってごあいさつに行って、あのニンジンケーキまだ…。まだ作ってるわよって、そこの奥さん、言うの。
日出代   奥さま、レシピ差し上げたんだ。
月子    「まだ作ってるわよ、ちゃんと続けるからね」って言ってくださったからね。
日出代   でも珍しいですね、ニンジンのケーキはね。
月子    ニンジンケーキとか、暇があるとパン焼いたりね。
日出代   私は煮豆をよくしてね。うずら金時っていうの? あれをよく皆さんに差し上げた。それから黒豆の時期になると黒豆。あれ時間が…。
月子    ほとんど自分ですよね、昔は。
日出代   黒豆はね。全部自分でやってた。

  
——— お料理教室できそうですね、皆さん。
日出代   お料理教室、ちょっと行きましたけども、うち、母がすっごくまめでやってくれたから、見よう見まねで。お料理教室よりも母もあれですね。味も母の味でね。
月子    素人の味っておいしいんですよね。
日出代   そう。またああいう何グラムなんてしなくても、もう舌で覚えて、親の味を。私の姉はもうそれを何グラム、几帳面なんですね。おかしいぐらい几帳面。だから妹が笑うんですね、うちの姉の。私なんか大体やったら、その味覚えてそうやって自分でやるのに、うちはね、なんつってよく。もうその舌で、感覚でやりますよね、ちゃっちゃと。
   
——— すごい。皆さん、食べることに一生懸命。
日出代   そうやりましたね、食べること。だから、船橋着いたって、主人、電話あると、天ぷらのときはそれから主人のを揚げてあげるの。揚げたてを食べさせてあげたいと思うじゃない? カツでも何でも、あったかいの。それから、もうその辺かなと思って、帰ってきてすぐいただきます。子どもたちは先、食べさしちゃってね。そうしましたね。で、もうね。
日出代   私たちの頃、手作りが多かったからね。
月子    そうですね。だって今みたいに、こういうふうに売ってなかったもんね。
日出代   うち、母がやっぱり手作りで全部やってくれたから、そういうもんだと思って。
月子    今度、あれ作ってきて、これ作ってきてってね。注文があるんですね。
   
——— お友達同士で?
月子    そう。ちょっと出掛けるときに、皆さんで食事したりすると、今度、あれ作ってきてねとか。それで、ものを大事にしたから、よそから頂いたリンゴを煮たり、いろいろしましたよ。
   
——— いいですね。さっきも上でユズを煮ていましたしね。
日出代   ユズねえ。私もユズジャムは初めてですね。イチゴとかリンゴはやりましたけど、ユズなんて。買ってあれはしない。ここはたまたま頂いて。
月子    種があって大変でしょう。
日出代   あれはね。だから、リンゴはジャム作りましたけど、ユズは初めての経験です。
   
——— 皆さんここに、はい、って材料置をいたら、なんでもパッと作れそうな感じがしますね。
日出代   なんか材料、ぽんっと置いて、何をやりましょうになっちゃう。できないこともないでしょう、今のうちならね。もうもっとこれより年取っちゃって、こんななったらできないけどね。今のうちならね、まだ。揚げ物でも何でもできちゃいますね。
   
——— 例えばお部屋に、これまでおうちにあったようなキッチンがあったら、やりたいことってありますか。キッチンじゃなくても、例えばミシンでも…。
日出代   私はこれ(空を縫いながら)は駄目なの。これ、なさるんでしょう。私はこれは駄目だったの。もっぱら…。
月子    私、洋裁したりね。
日出代   洋裁。じゃあ、ご自分のお洋服なんか。
月子    自分のは自分で縫って。
日出代   すごいですね。これもそう? ご自分で。
月子    これは違う。今はもう、ですけど。
日出代   もう今はね。もう今、既成がいろいろあるから。
月子    そう。で、先生のお手伝いしたりね。
日出代   じゃあ、すごいですね。先生の所でピアノの発表会あったら、こんなドレス。
月子    ドレスね、それから、長男の嫁と次男の嫁に洋服縫ってあげました。お色直しの洋服。
   
——— ワンピースとかドレスとかそういうものですか。
月子    レースの生地買ってきて。
日出代   じゃあ、大事にきっとしまってあるわよ、クリーニング出されて。
月子    長男のところは誰かお友達に貸したって言ってました。次男のはきっと、物置突っ込んであるわね。
日出代   それか、娘さんいらしたら、それを次の代にってなりますよ。おばあちゃまが作ってくだすったの。
月子    ほとんど自分で縫って着てましたから。
   
——— そうですか。和裁も?
月子    和裁もやりました。それで親戚で、和裁、これ直してとか、コート縫ってとかって言われる。できるからね。
日出代   じゃあ、すごく重宝がられてね。喜ばれたのね。
月子    作ることが好きだったので。
日出代   うちのおばあちゃんみたい。百歳過ぎてもやってましたよ。
月子    だから遊んでませんでしたね、そんなにね。
日出代   退屈することなかったでしょう。お人柄もいいでしょう、見るからにやっぱり。
  


(4)に続く
※ 人物の名称は仮名です